研究課題/領域番号 |
23530192
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
岡部 みどり 上智大学, 法学部, 准教授 (80453603)
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キーワード | 欧州連合 (EU) / 出入国管理 / 人の国際移動 / 対外政策 / 国際制度 |
研究概要 |
平成25年度は、EUが域外世界に対して展開している、出入国管理の調整を目的とする対外交渉についての研究報告を行った。まず、平成25年5月17日、18日に中国マカオで開催されたEU Studies Association Asia Pacific 2013年度大会において、”The Practice of Region-Building and Immigration Control- the EU strategy towards Asia”というタイトルで報告を行った。 また、上智法学論集第57巻第1・2号に、『シェンゲン規範の誕生―国境開放をめぐるヨーロッパの国際関係―』(単著、論文)を掲載した(このほか共著については後述参照)。 さらに、12月13日、14日の2日間、上智大学100周年記念シンポジウム『地域統合と人の移動-:高度人材獲得に向けたEUの地域戦略-アジア・日本への示唆-』(以下「ソフィアシンポジウム」)を、上智大学ヨーロッパ研究所、日EU科研費研究グループ(本研究代表者が研究分担者として参加している基盤(A)研究グループ)、ジェトロ・アジア経済研究所との共催、経済産業省、法務省入国管理局、国際移住機関(IOM)の後援によって開催した。これに伴い、米サザン・メソジスト大学のJ. F. ホリフィールド教授、独ハンブルク大学のG. フォークト教授、欧州連合閣僚理事会(在ブラッセル)司法・内務担当事務官のP. M. コッス氏を招いた。さらに、国際移住機関(IOM)駐日事務所長W. バリガ氏にも参加いただき、国際機構の立場も踏まえたEUの出入国管理に関する政策立案についての評価を行った。 なお、平成25年度前半に予定していた欧州への出張は行わず、本シンポジウム開催に向けた準備に専念した。関連計上予算は平成26年度に持ち越し、本年度に出張を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね予定通り進んでいる。交付申請の段階で示した計画「EUが行う一連の対外交渉に人の越境移動に関するイシューがどのように組み込まれているか」の分析については、域外との交渉の実態を調査することにほぼ成功した。しかしながら、平成25年度はほぼ国内において調査研究に専念していたため、これまで蓄積した資料の解釈に加えて、新規の調査対象としては日本を含むアジア諸国とEUとの交渉に焦点を当てた。当初予定していたEUの近隣諸国(CIS諸国およびマグレブ諸国)との交渉の実態については、ブラッセルから東京に招聘したP.M.コッス氏から提供いただいた資料を除いては、既存の資料を読み込むことに終始した。そして、その成果が、5月でのマカオでの学会報告、上智法学論集への論考、2冊の共著への論文執筆、12月の「ソフィアシンポジウム」での報告という形となった。 とりわけ、「ソフィアシンポジウム」の効果は予想をはるかに上回るものであり、後述のような編集本作成プロジェクトの発足とともに、高度技能移民や経済目的での人の移動、また難民の受け入れに関する出入国管理の調整局面の重要性という、既存の日本での関連研究にはない視点を明確に打ち出し、参加者へうったえることに成功したことは貴重な収穫であった。 同時に、国際機関の立ち位置やNGOの関与の動向について、国際移住機構駐日事務所、難民支援NGOのスタッフなどとの意見交換を通じて当初の予定以上に多くの知見を得た。これをもとに、平成26年度は主に欧州を基盤とした実地調査に専念できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は昨年度よりの期間延長を認められたため、平成25年度に予定していた欧州を中心とする国外出張を主体に調査を続けていく。まず、EUと近隣諸国間での対外交渉枠組みの中に人の出入国管理が組み込まれている状況、そして、出入国管理に関する規範の遵守が近隣諸国にどの程度強く求められているかということについて、オックスフォード大学移民政策研究所(通称COMPAS)研究員であるDr. Franck Duvell氏との共同研究を開始する。本代表者は本年10月よりCOMPAS客員研究員としてオックスフォードを拠点に研究を行う予定である(約9ヶ月間)。 また、昨年12月の「ソフィアシンポジウム」を受けた編集本の出版プロジェクトをこの春発足する予定である。テーマは『地域統合と人の移動』であり、欧州統合が法・経済・政治・社会の諸側面においてどのように人の越境移動に影響しているかを総合的に問い、かつ分かり易く説明することを目的とする。本代表者が編者となる。出版のための助成は国際移住機構(IOM)から受けることとなっている。欧州連合の司法内務的側面についての体系的な研究書や教科書はこれまで日本になく、その意味で文字通りパイオニア的試みである。また、人の移動の問題は国家や社会にとって利益と混乱の双方をもたらしているという欧米世界の歴史と現状を的確に、また正しく日本社会に伝えることは、今後の日本における外国人労働力の受け入れのあり方の参照となりうる。その意味でこの本がもたらす重要性や社会的影響は大きいと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度において欧州をはじめとする国外出張を予定していたが、同年後期に開催した国際シンポジウム(ソフィアシンポジウム)の準備に専念することに変更した。また、同シンポジウムでの報告を基にした単行本の編纂のための準備を優先することとしたため。 平成26年度は、前年度に予定されていた欧州や米国での調査研究のために当該予算を使用することとする。具体的な内容については、前述のとおりである。
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