本年度は、この研究プロジェクトの最終年度に当たり、研究成果の発表に務めるとともに、今後の研究の新たな方向性を模索することも兼ねた調査を開始した。例えば2015年1月、シンガポール国立大学日本研究所主催の国際ワークショップにおいて口頭発表した。また、アジアにおける地域主義の展開についての全体像を記した『重層的地域としてのアジア:対立と共存の構図』を2015年11月に出版した他、英文誌Asia Pacific Reviewへの寄稿など、研究成果の積極的な発信に務めた。 なお、アメリカではハーバード大学など複数の研究機関において、専門家とASEANの東アジアの秩序変容における位置づけや、アメリカや中国、日本のASEANとのなどについての意見交換を行った。中国の北京では、中国社会科学院などに在籍する専門家と、AIIBや一帯一路構想など、中国の対ASEANを含めた周辺諸国に対する地域主義戦略の新たな方向性の具体的な内容やその背景などについて、意見交換を行った。 このプロジェクトを通じて、「アジアの流儀」の変容を促す、国内の政治体制に関わる人権や民主化などに対する対応の変化、RCEPやTPPといった広域地域経済圏への対応の変化やASEAN経済共同体形成など、ASEAN自身の変化が、ASEAN国内における内生的要因とともに、域外国のこの地域への関与のあり方や、域外国とASEAN諸国との関係の変動、東アジア地域秩序全体の変容といった外生的要因と大きく絡んでいるということが改めて明らかになった。またASEAN諸国が、自らの主体性を強調しつつ、外からの関与を求めるという動きも見られる。ただ、「アジアの流儀」の変容の程度は現在のところかなり限定的であり、ASEANの人権や民主化、経済自由化への対応変化を過大評価すべきではないことも明らかになった。
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