研究課題/領域番号 |
23530206
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研究機関 | 大阪国際大学 |
研究代表者 |
瀬島 誠 大阪国際大学, 現代社会学部, 教授 (60258093)
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キーワード | 政治学 / 国際関係論 / 核拡散 / コンピュータ・シミュレーション |
研究概要 |
本年度は、当初の研究計画に則り、量的分析の検討を中心に進めた。平成24年度の研究課題は、サンプル数の少なさの問題と複合的なモデル構築であった。量的な分析において死活的な問題である核拡散のサンプル数の少なさについては、より一般的な拡散現象や政策変更の事例への拡張を行う方向での再検討を行った。第二の研究課題については、国内政治および認知というミクロ的要因を数量分析に組み込むには、大規模な質的データの収集と内容分析などデータマイニングの手法が必要である。数量分析としては今後の継続的研究課題とするが、この問題の解決に最適なのはシミュレーション分析であり、平成25年度の研究課題に引き継がれる。 研究成果の報告としては、小樽商科大学(8月17日)、京都産業大学(9月29日~30日)および筑波大学(平成25年1月16日)で行われたグローバル公共財学研究会で報告を行った。小樽商科大学の報告は、前年度の質的研究の検討を中心にとりまとめた。京都産業大学では、それまでの質的量的分析の検討を踏まえ、核保有の動機が複合的な要因で構成されること、その分析のためのシミュレーションモデル作成のアイデアを提示し議論した。筑波大学の報告では、核拡散に限定されないより一般的な拡散および政策変更に議論を拡張することによって、核拡散問題にアプローチする可能性を検討した。 出版としては、北朝鮮の核政策に重要な影響を与える中国について、パワー移行論を検討するとともに、そのシミュレーション分析を行った(瀬島誠「挑戦国中国の台頭とパワー移行理論」山影進編著『(タイトル未定)』書籍工房早山、2013年予定)。また、核拡散についての2年間の質的分析と量的分析の検討をまとめ、政策研究の可能性を検討した(瀬島誠「核拡散とその対応」吉田和男・藤本茂編著『グローバルな危機の構造と日本の戦略』晃洋書房、2013年予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5年間の研究期間の2年目までの到達度については、おおむね当初に予定していた実施計画に沿って順調に進められていると評価される。 初年度に当たる平成23年度の研究目的は、核拡散のダイナミクスに関する従来の質的研究を再検討し、研究期間の2年度目の量的研究と3年度目のシミュレーション研究につなげるための研究基盤を再構築することであった。既存の質的研究を研究する中で、開発技術や資源などの供給サイドの議論から外部の脅威の存在や国内情勢やリーダーのあり方という需要サイドに核拡散研究の重点が移っていること、しかし、政策研究という関連からは、供給サイドの議論も無視できないことが明らかになった。そのため、研究計画の2年度目以降からの研究基盤として、対外的要因、国内要因、リーダー要因、開発可能性要因などを総合的に捉える、複合的なモデルの作成が中心的な研究課題となった。この成果は初年度の研究目標を達成したものと評価できる。 2年目に当たる平成24年度の研究課題は、前年度の成果を踏まえ、核拡散の数量分析を中心に、数量分析にとっては重要な事例の少なさという問題の検討と複合的なモデルの検討であった。事例の少なさの問題を解決するには、核兵器の拡散だけではなくより広い一般的な拡散現象や政策変更に分析のスコープを拡げることが好ましく、これは平成25年度からのシミュレーション手法を使った研究につながる成果であった。また、複合モデルの作成については、数量分析でのモデル作成にはデータマイニングなどの手法を活用するために新たに大量のデータ収集が必要であり、今後の課題となった。それと同様に、この種の複合的なモデル作成と分析に最適なのがシミュレーション研究であり、平成24年度の第二の課題である複合モデルの作成と分析は、平成25年度からの研究において本格的に実施される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進については、基本的に当初の実施計画通りに推進する。本研究の2つの重点的な研究課題は、(1) 複数研究手法の融合的アプローチによる核拡散のダイナミクス分析と、(2) 核拡散防止のための政策研究である。研究計画の3年度目である平成25年度については、過去2年間の研究推進と同様に、(1)の核拡散のダイナミクス研究に重点を置く。これまでの研究蓄積を元に、初年度に問題策定された、国際環境というマクロ要因と国内環境および政治指導者というミクロ要因、資源などの供給要因を結節した複合的なモデル作成という研究課題を中心に、核拡散のダイナミクスについてのシミュレーション研究を実施する。 当初の計画と異なるのは、核兵器の拡散に限定されず、より広く社会一般の「拡散」現象を検討するという点である。平成24年度の研究で明らかになった、核拡散の事例の少なさという、量的分析の問題点を踏まえ、平成25年度の分析では、核兵器の拡散だけに限らず、広く社会一般に見られる「拡散」現象(流行、うわさ、民主化、革命、パンデミック、その他)にまで分析のスコープを拡げる。その中でも中心は、シミュレーション研究の手法を用いることであり、一般的な「拡散」現象のシミュレーションモデル化を検討するとともに、それをどのように核拡散のモデル化に取り込むかの検討を研究の軸とする。 さらに、平成25年度においても、平成26年度から本格的に進める、(2) 核拡散防止のための政策研究のために、予備的な文献調査に従事する。平成26年度には、質的研究、量的研究、シミュレーション研究の融合を行って、核拡散ダイナミクスの研究基盤を確立する。その研究成果を基に、核拡散をどのように防止するかの政策研究を重点的に進める。平成27年度には、政策研究を中心に研究のとりまとめと研究成果の報告を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費の使用については、基本的に前年度のそれを踏襲する。すなわち、旅費として割り当てた30万円について、国内での学会報告や研究会での報告を予定している。または、海外での学会や研究会での報告申請が受諾された場合には、その旅費の30万円を優先的に海外旅費として充当することも考える。これによって、これまでの研究の方向性が妥当かどうかの客観的な検討と今後の研究の可能性を検討する。全ての旅費をこの予算でカバーすることは不可能であり、不足する分は、本務校の研究旅費および研究分担者をしている他の科学研究費補助金の分担金(基盤研究(C)「機械学習による政治・経済データからのシミュレーションモデル生成」研究代表者八槇博史・東京電気大学准教授、課題番号23500175および基盤研究(A)「対立する国家間の経済的相互依存:緊密なシステムのヘテロ化による諸影響」研究代表者田所昌幸・慶應義塾大学教授、課題ID:13370903)を利用する。 平成24年度とは異なり、物品費17万円については、平成25年度における研究の重点となる、核拡散についてのシミュレーション分析のための文献および資料の収集を重点的に行うとともに、平成26年度以降に予定している核拡散に対処するための政策研究に関係する文献と資料の収拾に着手する。 その他費目の3万円については、平成24年度および平成25年度における、シミュレーション研究のために、データの整理のための費用に充当する。 以上によって、当該研究の研究方向性を外部的に評価してもらうとともに、平成25年度以降の研究に向けた研究の基礎を構築する。
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