研究課題/領域番号 |
23530209
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
佐野 真由子 国際日本文化研究センター, 海外研究交流室, 准教授 (50410519)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際関係史 / 朝鮮通信使 / 欧米外交官 / 幕臣 / 経験の蓄積 |
研究概要 |
本研究は、徳川幕府による外交儀礼の詳細に迫り、そこから、近世を通じたアジア域内外交の経験が、幕末期に開始される欧米諸国を相手とした国際関係の土台となったことを、実証的に示そうとするものである。 報告者は、本研究計画の主要な前段となった前年度までの科学研究費補助金プロジェクト(若手B)「徳川外交の連続性―『近世』から『幕末』へ、幕臣筒井政憲に見る経験の蓄積に着目して」を通じ、徳川幕府において、幕末期に欧米諸国から来日した使節への対応様式が、それ以前の朝鮮通信使迎接時の慣例を原点として順次整えられていった様子をかなり具体的に把握していた。研究初年度である平成23年度には、そのように慣例が引き継がれた経緯を、江戸城中における使節迎接儀礼の各要素に区分してより精密に検証する作業に着手し、とくに「食」にまつわる側面について主要な成果を得た。 またとくに、本研究では、朝鮮通信使迎接から、直接には安政4(1857)年の米国使節タウンセンド・ハリス迎接へと継承された儀礼態様が、その後、蘭ドンケル=クルチウス(1858 年)へ、再びのハリス登城を経て、英オールコックの将軍拝謁儀礼(1860 年)へと、順次、前例に基づいて整理されていく様を跡付けることを重要な課題と考えているが、海外分についてはイギリスでの史料調査が大きく進捗した。さらに、こうした儀礼の準備に携わった幕閣・幕臣たちの、世代を超えた人的系譜を掘り下げることにより、当時の政策実践現場における外交認識の連続性を論証するという本研究の最終的な問題意識がある。これに関し、初年度はまず、報告者が「開明派幕臣」と位置づけるこれら徳川官僚たちの最末期、幕府崩壊前後の事情に着目、静岡等において集中的に調査を行った。 総じて、残り2年間の研究の基盤を築くという観点から、きわめて有益な初年度の活動であったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、目的達成のために明らかにしようとする内容を、大きく以下の1)2)に分けて設定している。1)近世の朝鮮通信使迎接儀礼から、米使節タンセンド・ハリス拝謁儀式への継承に続き、後に続く蘭使節ドンケル=クルチウス、英使節オールコックの段階へと、幕府側の対応が順次、前例に基づいて整理されていく様を跡付けること。2) 上記1)のように順次、儀礼のあり方が検討されていく過程は、その実践に現場でかかわった幕閣・幕臣たちが先輩から後輩へと経験を語り継ぎ、外交認識を共有するとともに、時代に即して理解を改めていく格好の舞台となったとの観点から、徳川幕府の外交儀礼に携わった歴代の担当者らの政見や行動、その背景をなした職業経験の蓄積を掘り下げること。 このうち1)については、当初の「朝鮮通信使から米使節タンセンド・ハリスへ」の段階について、儀礼様式継承の分析をより精緻化すると同時に、後年のイギリスをめぐる事情に関し、在外史料による調査を大きく進捗させることで、今般3年間の研究計画の効果的なスタートを切ることができた。他方、それらの間に位置するオランダに力を入れることを含め、いわば「点から線へ」と、これらの分析をつないでいく作業は、今後の重要な局面と認識している。2)については、報告者が徳川幕府の「内なる近代化」を担ったと考える、本研究の「登場人物」が出揃い、最終的に描き出していく(大きくは筒井政憲から勝海舟に至る)人脈の流れがほぼ把握できたところである。これを基礎に、各人の見解、行動、影響関係を、日本各地に所在する史料の発掘を含めてより精緻につなぎ合わせていくことが、これからの主要な課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は、主に以下の3点に分けて述べることができる。まずはこれらそれぞれについて、基礎作業を相互につなげ、「点から線へ」の展開をめざす。イ)上記「概要」欄に記したとおり、平成23年度において、儀礼の継承過程を各要素に区分のうえ、これまで以上に精密な検証を進めることに着手したが、これを「食」以外の「装束」「儀礼空間の設営」、また、江戸城外を含めた「宿所」「街道通行」等、関連する多様な要素について同樣に行っていくこと。本研究における最も基礎的な作業であり、外交文書のほか、各種の儀典関係の史料を用いて進めることになる。ロ)徳川幕府が外交関係を結び、相対する欧米の国々が増加するに従い、近世的儀礼に順次変容が加えられつつ継承されていく様を、時系列的に追跡すること。この部分はとくに在外の関連史料を紐解くことにより、本研究の特徴的な成果につなげていきたい。ハ)これらの儀礼準備をめぐって検討を重ね、「近世」から「近代」への橋渡し役となった幕臣たちの経歴、政見をより詳細に調査し、最終的にはとくに、彼らの人脈的つながりを明らかにしていくこと。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度からの繰り越し分を合わせ、上欄ロ)に関する在外史料調査を中心とした旅費、それら調査の際の複写代が主な支出事項となる。国内では国立公文書館、長崎歴史文化博物館、横浜開港資料館等が主要な調査地となる予定である。 そのほか、幕府制度史や儀礼関係の先行研究、あるいは復刻資料について、報告者の勤務先図書館が所蔵していないものを積極的に収集する。
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