研究課題/領域番号 |
23530210
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
原本 知実 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 研究員 (20558100)
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研究分担者 |
星野 俊也 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (70304045)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | コソボ / セルビア / セルビア正教 / 文化遺産 |
研究概要 |
本研究では越境性を有する文化遺産をめぐる複数の政治主体(国家主体、非国家・準国家主体)の、越境文化遺産に関する所有と保護に関する政治主体間の行動を、概念的に類型化を行い、さらにそれぞれに適合する具体的な事例を取り上げて、現地調査研究を基に進めていく。今年度は、越境文化遺産が、所有・保護に消極的な主体の内部に存在するが、外部には所有・保護に積極的な政治主体が存在する場合の事例として、コソボの教会群を対象に調査を行った。コソボでは、世界遺産の教会群である、デチャニ修道院、ペチ総主教修道院、グラチャニツァ修道院を訪問して神父から実際の状況と、セルビアとの関係などを聞き取るとともに、コソボ政府の文化省を訪問し、コソボ政府としての当該教会群保護に対する姿勢や対応などについて聞き取りを行った。また、国際文民事務所の文化遺産担当者などからも、紛争以降の文化遺産を取り巻く状況について話を聞いた。セルビア正教会の背景にはセルビア政府のサポートがあり、コソボとセルビアの関係改善はこの遺産のあり方にも大きく影響することが確認された。ユネスコの世界遺産に登録されているにも関わらず、セルビアとコソボの対立のもとで、セルビア正教会では独自に修復が進められており、これにはセルビア正教会関係者によるコソボ政府への不信が継続していた状況がある。情勢の安定化に伴い、観光資源としての重要性も増加する中で、遺産を保護し平和構築に結びつけるための分析が求められていることが再認識された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた訪問先は幸運にもほぼすべて訪問することができた。さらに、現地ではこの研究のテーマに関して我々が認識している以上に調査対象となる当事者が必要性を感じていたため、インタビューなどに非常に積極的であったこと、また星野(国際政治)と原本(文化遺産保護)の役割分担が研究を進めるにあたって非常に良い構成であったこと等により、必要な情報はほとんど収集/分析することができた。日本での文化遺産の扱いは政治とは切り離されたところで議論され、そのためこれまではほとんどが技術的な視点での研究であるという点が問題であると考えて本研究を始めたため文化遺産研究と国際政治研究の融合として進めた。初年度の成果としては、この融合であるため得られた部分が大きく、この意味でも既存の文化遺産保護議論から一歩進んだ成果に近づいていることが感じられた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は対象とする越境文化遺産が、所有・保護に消極的な主体の内部に存在するが、外部には所有・保護に積極的な政治主体が存在する場合の事例としてコソボ教会群を調べた。今年度は対象とする越境文化遺産が、所有・保護に積極的な主体の内部に存在するが、外部にも所有・保護に積極的な政治主体が存在する場合の例として、エルサレム旧市街の調査を計画している。エルサレム旧市街を巡って所有・保護に積極的な当事者としてはイスラエル、パレスチナ、ヨルダンの3つの当事者がある。エルサレム旧市街はヨルダンの申請によりユネスコの世界遺産に登録されたが、現在はイスラエルに存在するため毎年ユネスコの世界遺産委員会でその保護・保存が議論とされるのかが注目されるが、審議が翌年に持ち越され続けている状況である。しかし昨年、パレスチナがユネスコに正式に加盟が認められた。このことから、これまでオブザーバーの立場であったパレスチナが今年はユネスコの世界遺産委員会に正式な締約国として参加するため、この遺跡を巡る保存状態の議論が行われるのではないかと考えられる。本研究の代表者は今年度の世界遺産委員会に所属機関の職務として出席するため(6月)ここでの議論を確認した後、10月頃に現地を訪問しての調査を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定では今年度にプレア・ヴィヒアの調査も予定していたが、イスラエルの現地調査が秋以降になるため、プレア・ヴィヒアの調査は来年度に実施することになる。また、来年度は報告書の作成も予定している。
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