研究課題/領域番号 |
23530210
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
原本 知実 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエートフェロー (20558100)
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研究分担者 |
星野 俊也 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (70304045)
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キーワード | 戦争文化財 / 日米 / 京都 |
研究概要 |
本研究では越境性を有する文化遺産をめぐる複数の政治主体(国家主体、非国家・準国家主体)の、越境文化遺産に関する所有と保護に関する政治主体間の行動を、概念的に類型化を行い、さらにそれぞれに適合する具体的な事例を取り上げて、現地調査研究を基に進めていく。 今年度は主に、国家主体間における文化遺産の所有と保護を中心に研究を行った。当初の予定ではエルサレムにおいてイスラエル・パレスチナで現在起きている所有と保護に焦点を当てて現地調査を基に研究を進める予定ではあったが、昨年度のコソボでの調査から、文化財の保護や所有問題が戦後の和平においてどのような影響を及ぼすのかを検討する必要が生じたため、特に戦後の和平において戦中の文化遺産が果たす役割、戦後の所有問題などを、第二次世界大戦でのアジア太平洋地域について焦点をあてて分析した。この成果はワシントンD.C.で開催された学会において報告し、アメリカ側の研究者と意見交換をおこなった。今回の調査では、戦争・紛争のなかで破壊・略奪された文化財が戦後の関係にいかに影響を与えるのか、また戦争・紛争で使用された武器・兵器などが戦後に文化財として扱われるという新しい問題を検討する必要を認識できる機会となった。昨年のコソボ調査の際に、アルバニアではセルビア人と戦ったアルバニア人の英雄の家を文化財にしたいとの話があったが、ボスニア等でもこうした動きは考えられる。日本とアメリカの戦後において原爆ドーム等の負の遺産だけでなく、戦闘機沈船なども国内だけでなく戦地となった諸外国に所在するものも含めて戦後60年以上経過した事例を見ることで、現在の問題を分析する上での参考の一つとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は研究分担者との予定が合わなかったため、共同での調査を実施することが困難であった。そのため当初予定していたエルサレムへの調査がかなわなかった。一方で、本研究を深く追求するために必要であると言える部分を補うためにアメリカで開催された学会に出席することでネットワークを広げることができたことは意義のあることであった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は昨年度本来予定していて実行できなかったエルサレム旧市街の調査を計画している。これは、対象とする越境文化遺産が、所有・保護に積極的な政治主体の内部に存在するが、外部にも所有・保護に積極的な政治主体が存在する場合の例として調査を行う。 また、昨年度までの調査で負の側面を持つ越境文化遺産についても調べる必要性を感じたことから、今年度はポーランドのアウシュビッツでの調査を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
6月 ポーランドのアウシュビッツを訪問し、これまで見てきた越境性とは異り負の越境文化遺産を調査する。これまで訪問したバルカン半島等で、こうした負の遺産の所有・保護にも、平和構築につながる大きな意味があるという側面を見てきたことで、アウシュビッツはいかにして所有・保護の越境性を平和構築に転換して役立てているのかを調査してくることとする。 11月~12月 イスラエルのエルサレム旧市街において調査を予定している。 年度末 報告書をまとめる 昨年度は研究分担者とのスケジュール調整ができなかったためエルサレムでの調査ができなかったことで研究費を今年度に持ち越すこととなった。
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