最終年度の11月にはキプロスでの現地調査を実施した。キプロスは南北に分断されており現在でも国連PKOが展開されている状況にある。従ってまず南側の北キプロス共和国での文化遺産の現状調査や政府関係者との面談等を行い、面談の際に北部の文化財の状況について詳細を調べた。続いて北部のトルコによる実行支配地域に入り、文化遺産の状況を調査した。キプロスはコソボと同様に、文化遺産の所有・保護に消極的な主体(北部)の支配地域に、文化遺産の所有・保護に積極的な主体(南部)の文化遺産が所在しており、まさに本研究が対象とする文化遺産と平和構築の関わりを見ることができる興味深い地域であった。 また、最終年度の3月には、文化財保護実務者、考古学・保存科学の研究者、JICA などの人々を招いて研究会を行った。この研究会では本研究の研究成果の報告をおこなった。政治学の専門家と文化財の専門家の前で研究成果を報告できたことで、「越境文化遺産」について保護技術者と政治学者がともに議論する場を持つことができたという点で本研究の目的の一つを達成したと言える。 本研究ではイスラエルを調査対象地としていたがこれが達成できなかったため、最終年度には日本国内においてイスラエル考古学の専門家と面談し、現在のイスラエル政府の文化財に対する方針や現状、その歴史等の詳細を聞くとともに、ここでも考古学と政治学の両者の意見交換を行うことができた。 さらに、筑波大学で実施されたシリア文化財の復興に関する専門家会議にも出席し、今後同国が安定した場合の我が国の文化財への貢献についての議論に参加した。
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