貨幣的均衡が脆弱であること(無限個の均衡が存在し、そのうちどれが達成されるか明らかではない)は、理論的に示されている。今年度は、それを実験により、実際に脆弱であるか確認した。つまり、理論的には無数の均衡が存在しても、そのうちごく少数のもののみが実現する可能性がある。つまり、ある種のフォーカルポイントが存在する可能性がある。具体的には、まず、実験を可能にするための理論を構築した。つまり、通常の理論では、極めて多数の経済主体(無限人の主体)を前提とするが、実験的には有限かつ少数の主体しか前提にできないため、理論的な修正が必要になる。次に、実際に実験を行った。総数24名の被験者をランダムに4グループに分け、貨幣を使ったゲームを行った。その結果、いくつかの顕著な傾向が観察された。1.取引価格は時間とともに上がる、2.取引量は時間とともに減少する、3.時間とともに取り引き不可能な高い価格を提示する被験者が増加する。また、選ばれる均衡については無限個の中の一部ではあるが、唯一とは考えられない。したがって、この実験では、ある意味、均衡は脆弱であることが確認された。これらの結果には、被験者の学習が大きく関わっていると思われる。今後は、学習効果について考察できる実験を設計する必要がある。 この実験は、現実の貨幣経済を説明するためにいくつかの意義を持つと考えられる。つまり、現実の貨幣経済は、期待と学習により好況から不況、不況から好況にファンダメンタルズの変化がなくても移行する。この実験は、どのような均衡が選ばれるかを考察する一つの端緒になったと考えられる。
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