研究課題/領域番号 |
23530215
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大瀧 雅之 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (60183761)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 価格の硬直性を排除したケインズ経済学 / 非自発的失業のミクロ経済学的基礎 / 完全情報下のフィリップス曲線のミクロ経済学的基礎 |
研究概要 |
勁草書房より『貨幣・雇用理論の基礎』および岩波書店より新書『平成不況の本質:雇用と金融から考える』を刊行した.また後述するように査読付の英文国際雑誌に三本の論文が受理された. これら一連の研究は,価格の硬直性を前提としない新古典派ミクロ経済学に忠実なケインズ経済学の理論(英語の査読付論文と『貨幣雇用理論の基礎』)およびその観点からの現状分析(岩波新書『平成不況の本質』)であり,本研究が順調に遂行されている何よりの証拠であると考えている.また業績の質・量から考えて,徐々にではあるが,ケインズ経済学と新古典派ミクロ経済学の親和性が社会的に認知されつつある手ごたえを感じている. より具体的には以下の理論的命題の証明に成功した.動学的一般均衡モデルの完全競争下においても,ケインズの有効需要の理論が一般に成立することを証明した.従来,アメリカンケインジアンに象徴されるように,ケインズ経済学のミクロ経済学的基礎は,寡占による過少生産に求められてきた.しかし本研究では,貨幣を含む世代重複モデルにおいては,貨幣自身の価値(一般物価水準の逆数)は,財市場の需給とは無関係に,それ自身の将来の予想によって定まり,名目貨幣供給量とも無関係であることを厳密に証明した.このことを経済学的に解釈すれば,貨幣経済が一種の「入れ子構造」になっていることを示しており,貨幣の将来の購買力予想次第では,実質貨幣残高の不足とともに有効需要が低下し,経済に失業を伴う過少生産が発生することを意味する. つまり本研究は,現状だけでも,ケインズ経済学を寡占の経済学から貨幣市場に固有の失業を取り扱う経済学へと変身させたと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究初年度で,本を二冊刊行し,査読付の英文論文三本を受理されたのだから,業績自体に問題はないと考えている.また海外の学会にも四度出張したが,うち三回は討論者が大変常識的な人物で,優れたコメントを戴いた.この結果理論の拡張方向も明らかになり,次年度以降の研究も余裕を持って取り組むことができる.すなわち,理論を一つは開放経済化し,国際金融理論のミクロ的基礎を定めることである.今ひとつは,理論に資本蓄積を取り込み,ケインズ的な経済成長理論を構築することである.
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今後の研究の推進方策 |
基本となる新古典派ミクロ経済学と整合的なケインズ理論の構築はほぼ完成したので,その応用編に取り組みたい.より具体的には,理論を外国との財・資本取引の存在する開放経済モデルへ拡張したい.現在研究している理論は基軸通貨国モデルであり,一つの通貨を異なった国々で共用する理論である.既存研究は,相手がある通貨を選択すればそれに便乗すればよいという,ゲーム理論で云うところの「戦略的補完性」に完全に依拠したものである.しかしながらこれでは,どの国の通貨でも基軸通貨となりうることを主張しているだけであり,何も説明していることにはならないと考えている. そこで基軸通貨システムを基軸通貨国以外のソブリンリスクに関する一種の暗黙の保険システムと捉えたい.つまり歴史を見れば明らかなように,基軸通貨となっているのは,その時代に最も工業化が進み,圧倒的な生産力を持つ先進国である.この国がいわばその圧倒的な生産力を裏づけに保険会社として,ソブリンリスクを対象とした保険証券としての基軸通貨を発行する.その代わり平時には,基軸通貨を用いることで発生する様々なレント(例えば通貨発行益)を保険料として徴収すると考えるわけである. こうして考えると,現在のアメリカ経済の経常収支の大幅赤字は,レントからの収益が実現したソブリンリスクへの対処費用を上回っているためであると,整合的に解釈できることが予想される.
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費50万円海外のコンファランスに現時点で三度出張の予定その他20万円英文校閲料,コンファランス参加費,論文投稿料など
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