研究課題/領域番号 |
23530218
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中嶋 智之 京都大学, 経済研究所, 教授 (50362405)
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キーワード | マクロ経済学 / リスクシェアリング / 非完備市場 |
研究概要 |
平成24年度は、以下のプロジェクトについて研究を行った。1.非完備市場における最適課税政策、2.金融機関に関わるシステミックリスクのaggregate economyに対する影響、3.金融市場の不完全性がもたらす国債価格とインフレーションに対する影響、4.開放経済でliquidity trapが生じた場合の望ましい金融政策について、5.debt restructuringが持続的なdebt overhangを生じさせる可能性について。 1.に関しては、昨年度までの研究の拡張として、労働所得に対する非線形課税を考慮した。そのような拡張を行っても、資本課税に関する論文の結論の主要部分は成立することが確認された。2.については、2007年から2008年におこった世界金融危機を説明するような動学的一般均衡モデルの構築と、その数量的分析を行った。金融危機において観察された、短期流動性の枯渇、短期利子率の上昇、生産活動の収縮といった特徴を、我々のモデルによってうまく捉えることができた。3.については、昨年度に引き続き、国債の空売り規制がある状況の中で、金融機関など一部の経済主体がleverageを用いて国債の購入をするような理論モデルの分析を行った。4.については、開放経済モデルでliquidity trapが生じるような状況で、様々なsimple monetary policy ruleを考え、それらの厚生分析を行った。5.については、企業と銀行の長期的な貸出関係において、経済環境の悪化から、企業の負債が返済可能な額を超えてしまうような場合に、どのようにdebt restructuringが行われるか、そして、それにより持続的なdebt overhangが生じるのかについて分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度において執筆・改訂した論文は以下のとおりである。(1)"Optimal taxation and constrained inefficiency in an infinite horizon economy with incomplete markets." (2)"Constrained inefficiency and optimal taxation under uninsurable risk." (3)"Global liquidity trap."(4)"Why prices don't respond sooner to a prospective sovereign debt crisis."(5)"A macroeconomic model of liquidity crises."(6) "Debt restructuring and persistent debt overhang." それぞれの論文は、日本国内や国外における国際的なコンファレンスにおいて発表するとともに、国際査読誌へ投稿済みか、投稿に向けた準備中である。さらに、それぞれの研究を発展、深化させたプロジェクトも進行中である。 これらの点から、研究はおおむね順調に進んでいると評価できると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえ、今後も以下の4つのテーマについて研究を行っていく。(1)非完備市場における最適課税政策、(2)金融機関に関わるシステミックリスクのaggregate economyに対する影響、(3)金融市場の不完全性がもたらす国債価格とインフレーションに対する影響、(4)ブータン王国におけるリスクシェアリングに関する調査。 これらのテーマについて、以下のように研究を推進していく予定である。(1)京都大学経済研究所の梶井厚志教授、European University InstituteのPiero Gottardi教授との共同研究を行う。(2)慶応大学経済学部の小林慶一郎教授との共同研究を進める(3)Federal Reserve Bank of AtlantaのRichard Anton Braun博士との共同研究を進める。(4)慶応義塾大学の大垣昌夫教授との共同研究を進める。 それぞれのテーマについて書かれた論文は、国内外の国際的なコンファレンスで随時発表を行い、様々な研究者との討論を通じて、論文の質を高めていくものとする。最終的には、評価の定まった国際的な査読誌へ発表することを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
いくつかの国際コンファレンスで論文を発表するとともに、該当分野で活躍する他の研究者と意見交換を行う。そのための旅費として、80万円ほどを使用する予定である。残りは、数値計算のためのソフトウェアや関連分野の書籍購入に使用する。
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