研究課題/領域番号 |
23530226
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
尾崎 裕之 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (90281956)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 理論経済学 |
研究概要 |
平成23年度は、研究課題に関わる研究として、非期待効用の1つであり盛んに研究が行われているナイトの不確実性の応用論文を2本完成させた。1本目はMonetary Equilibria and Knightian Uncertainty(大滝英生氏との共著)であり、ナイトの不確実性を確率的世代重複モデルに応用した論文である。より具体的には、確率的世代重複モデルの経済主体である各世代が、一意に定まる確率ではなく確率の集合を用いて不確実性を評価すると仮定する。ここで各世代は、この集合に属する個々の確率で期待効用を計算し、その中で最悪のものを最終的な期待効用として採用する。Maximin Expected Utilityと呼ばれる不確実性の評価方法である。この想定の下で、本論文は、貨幣均衡が存在すること、しかも、均衡は一意に定まらない、つまり、複数均衡が発生することを証明した。どのような条件下で均衡の不決定性が発生するかを明らかにすることは、マクロ経済学の重要なリサーチ・プログラムの1つであり、ナイトの不確実性がそのような不決定性をもたらすことを明らかにした点で、本論文の結果は意味があると言える。さらに、静学的一般均衡モデルでDana(2004)が示したような、不決定性が発生するための条件が集計リスクの不存在であるという結果とは対照的に、動学的一般均衡モデルを分析した本論文では、不決定性発生のための条件が集計リスクが存在することであるということが示されている。この点も、興味深いのではないだろうか。本論文は、研究代表者によって法政大学と成蹊大学で報告され、また共著者によって慶應義塾大学、同志社大学、岡山大学で報告された。2本目もナイトの不確実性の応用論文で(西村清彦氏との共著)、ある種の最適化問題の解析的な解を求めている。こちらは、今年度の日本経済学会秋季大会での報告を希望している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要でも述べたように、既に研究題目に関連する論文を2本完成させている。また、研究題目に直接関係する研究については一定の予備的結果が得られている。先ず、非期待値が与えられたとき、その条件付非期待値を定義する方法が、ある種の非期待値(具体的には、implicit mean)については得られている。(研究代表者自身による。Ozaki(2009))これは、非期待値を生成する心理的誤差(心理的誤差を最小化するものが当該非期待値となる)を用いて条件付非期待値を定義する方法であるが、この方法をナイトの不確実性によって表現される非期待値に応用した。特に、ナイトの不確実性を生成する心理的誤差を見つけることに成功している。この誤差を用い、ある情報が与えられたときの近似(誤差を最小にするもの)を求めると、これが条件付非期待値となるが、大変興味深いことに、このように定義された条件付非期待値は一意に定まらないことが分かる。これは、実はナイトの不確実性を応用したモデルにおいてしばしば発生する均衡の不決定性(複数性)と密接に関係している。これら複数存在する条件付非期待値を絞り込んでいくための条件を見つけていくことが今後の課題となる。研究題目に直接関係する研究として、次に、心理的誤差を最小にするという意思決定者の行動を公理化する研究を行った。これは、具体的には有名なSavageの公理系の中のsure-thing principleと呼ばれる公理を弱めることによって達成されることが分かった。既に目的の公理系は得られているものの、1つの公理が依然としてやや解釈しにくい形に留まっており、この公理をより洗練された形に書き換えることが残された課題である。以上述べて来たような2つの研究について、一定の成果が得られており、2年という残りの研究期間を考慮するならば研究は概ね順調に進展していると判断できるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究課題に関連する既に完成した2本の論文の成果公開に努めることと、研究課題に直接関わる研究(「現在までの達成度」の項で述べたもの)を完成させることを目指す。前者については、積極的に学会報告を行っていく。既に国内の複数の大学で研究報告を行ったが、これに加え、本年度の日本経済学会で報告を行う。(春季大会においては、共著者による内1本の論文の報告が決定しており、秋季大会においては研究代表者が他の1本の論文を報告することが予定されている。)また、7月にオーストラリアで行われる国際会議での報告(研究代表者による)が決まっている。この他、国内外での学会において積極的に報告を行うことによって論文へのコメントを得、それをもとに論文の改訂を行い、最終的には査読付き国際学術雑誌への掲載を目指す。後者については、次年度中に論文を完成させ、早ければ次年度中にも大学、研究会、学会での報告を行っていく。再来年度の国際学術雑誌への掲載を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究は、研究費を約42万円余らせて終了したが、これは震災の影響による研究費支給額の3割の減額を想定し、慎重に予算執行計画を立てたことによる。この分と合わせ、次年度の予算執行は以下のように行う。「今後の研究の推進方策」の項でも述べたように、次年度の研究活動は、1つは、既に完成した2本の論文を国内外の研究会、セミナー、学会等で積極的に報告していくことである。また、現在遂行中の研究についても、報告可能な段階に到達したときには、これを積極的に報告していく。このような研究活動には、国内外の学会に参加するための旅費、宿泊費が絶対に欠かせず、このため、研究費をこれらに割くことが是非とも必要となる。また、現在遂行中の研究に関しては、専門的知識の提供を受けるために、国内外から専門家を招聘することを考えている。このための、旅費、宿泊費、謝金等にも研究費を使用する予定である。その他、必要に応じて、書籍代(物品費)、英文校正代などにも研究費を充当する。
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