研究課題/領域番号 |
23530226
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
尾崎 裕之 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (90281956)
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キーワード | 国際研究交流 |
研究概要 |
平成24年度には、研究課題に関連して3本の論文を完成させた。いずれも非期待効用理論に属するもので、最初の2本は、不確実性の度合いが強く、不確実性についての確率評価すらできない場合に、経済主体が、考えられる最悪の場合が最善となるように行動すると仮定し、そのマクロ経済学的含意を分析したものである。1本目の論文では、この仮定の下での確率的世代重複モデルを研究し、通常では起こり得ない、非可算無限個の定常貨幣均衡の存在を示した。2本目の論文は、投資家が貨幣を投資プロジェクトに対して、どのように投資するかを分析したものである。この論文では、最適解を具体的に計算できることを示し、さらに、確率が分かっているときに平均保存的拡散が起きた場合には、投資の閾値が増大するというこれまでに知られている結果とは異なり、より強い意味での不確実性の増大は、その閾値を低下させることを示した。前者の論文は、現在、査読付き学術雑誌に投稿中であり、後者については、平成25年5月にパリで行われる学会で報告予定である。3本目の論文は、研究課題にある「心理的誤差」に最も深く関わる研究である。サベッジによる主観的期待効用理論では、経済主体はある主観的確率を用いて期待効用を計算し、これを最大化するように行動するとされる。ところが、数学的には期待値というのは、二乗誤差を最小にするように計算される確率変数の近似である。したがって、サベッジの理論では、経済主体は二乗誤差を最小にするように行動することが前提とされている。これに対し、研究代表者の研究は、二乗誤差に限らず、なんらかの意味での「心理的誤差」を最小にするように行動する経済主体の選好関係の公理化に成功した。これにより、主観的期待効用理論では示せなかった、興味深い経済主体の行動の分析が可能となる。この論文は、平成25年5月にパリで開催される学会で、報告論文として採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主要テーマを2つに分けると、(1)二乗誤差とは限らない「心理的誤差」を最小にするように行動する経済主体の選好関係の公理化、および、適当に与えられた非期待値を、その「心理的誤差」の最小化として表現できるような「心理的誤差」の存在の研究、(2)(1)の問題の「条件付き」概念への拡張、ということができる。(1)の前半については、「研究実績の概要」で述べたように、既に論文が完成しており、英文校正などを経て、間もなく専門誌へ投稿する予定である。後半についても、既に関連文献を読み始めており、特に、ショケ積分と呼ばれる非期待値については、条件を満たすような「心理的誤差」の存在に関して、初期的な結果を得ている。(2)については、「条件付け」という概念を、より粗い情報の下で可測となる(評価できる)関数を用いて、ある「心理的誤差」を最小にするように近似する、という解釈を採ることによって研究を進めている。非期待値の条件付き非期待値の定義、および、それと関連する形での条件付き選好の公理化がそれに含まれるが、前者については、ショケ積分に関する初期的結果が得られており、後者については、上記の論文においても少し触れているように、研究の方向性は見えている。以上のことから、当該研究は、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で述べた問題について、結果を出していく。特に、上記(1)の後半で述べたことには、非期待値がどのような条件を満たせば、ある「心理的誤差」が存在して、その非期待値をその誤差の最小化として表現できるか、という問題が含まれるが、これは数学的にも非常に重要な問題であり、この解決には全力を尽くしたい。また、(2)で述べたことの後半、条件付き選好を「心理的誤差」の最小化で説明する手法は、特に公理化という形で経済学で議論されてきた意思決定の問題と、統計的意思決定の問題をつなぐ、非常に新しいアプローチであると考えている。この研究についても結果を出していきたい。このような目的を遂行するために、関連論文の読み込みや、関連する領域の研究者達から専門的知識の提供を受けることはもちろん、結果が得られ次第、できるだけ多くの研究報告の機会を利用し、成果を公開していきたいと考えている。最終的には論文の形にまとめ、専門誌への掲載を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年5月にパリで連続して行われる2つの学会に出席することが決まっていたため、平成24年度の研究費については、やや余裕をみて執行を行った。平成25年度には、これ以外にも、国内外を問わず、できるだけ多くの学会に出席し、成果報告を行いたいと考えている。これは、上の「今後の研究の推進方策」実行のためにも、是非とも必要であり、このために旅費として研究費を使用したい。この他にも、専門的知識の提供を受けるための講師への旅費や謝金の提供が必要である。また、研究成果が論文の形にまとまり次第、積極的に専門誌への投稿を行っていくが、そのための英文校正費用も研究費として申請したい。
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