本研究は,社会的ジレンマ状況における協力集団の形成に関する確率進化分析を行った. 従来の確率進化分析では主に単一母集団モデルが考察されてきたが,本研究はより現実的な複数母集団モデルとしてこの問題を定式化した.その成果は,論文としてまとめられ,現在,国際学術雑誌の査読審査受審中である(本報告書「13. 備考」参照).この論文の考察対象は,集団形成ゲームである.これは,社会的ジレンマ状況における協力集団の形成を戦略ゲームとして定式化したものである.論文の前半において,集団形成ゲームにおける均衡の存在と特徴づけが与えられ,このゲームは複数の狭義均衡を一般に持つことが示される.したがって,集団形成ゲームに対する均衡選択が求められることとなる.これを受け,論文の後半で確率進化分析による均衡選択を行う.集団形成ゲームは非対称利得を持つゲームなので,これに対する確率進化分析は複数母集団モデルを採用して初めて可能になることに注意する.さて,一般の集団形成ゲームにおける均衡選択問題は極めて複雑である.よって本研究は,各プレイヤーの協力行動への傾向度が大小2つの値(タイプ)に限られるという条件のもとで問題を考察した.この場合,集団形成ゲームの戦略的相互依存関係は著名なタカ・ハト・ゲーム(Hawk-Dove game)のそれに相似することが明らかにされた.これを用い,対応するタカ・ハト・ゲームのナッシュ積の大小比較により,確率安定な協力集団が求められることが明らかにされた.すなわち,2人2戦略協調ゲームの均衡選択についての既存の結果と整合し,かつそれを一般化する形で,最大ナッシュ積をもつ協力集団が確率安定集団となることが示された.
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