研究課題/領域番号 |
23530232
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研究機関 | 大阪経済大学 |
研究代表者 |
宮川 敏治 大阪経済大学, 経済学部, 准教授 (30313919)
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キーワード | 非協力交渉ゲーム / 提携形成 / 外部性 / 不完備情報 |
研究概要 |
グループや提携の形成が外部のプレイヤーの利害に影響を及ぼす「提携の外部性」の存在する下での非協力交渉ゲーム理論の研究を前年度に引き続き行った。Nash bargaining solution under externalitiesでは、交渉決裂点として各プレイヤーが他のプレイヤーが合意を形成すると考える新しいナッシュ交渉解を定義し、それを実現する交渉の手続きを提示した。さらに、継続的に交渉が行われ、再交渉も許される状況を考え、交渉において全体提携がすぐに形成されるための条件と、逆に戦略的に徐々に提携を拡大していく現象が発生する条件を明らかにする研究をNash bargaining solution, core and coalitional bargaining game with inside optionsで行った。以上の2つの成果はワーキングペーパーとしてまとめられた。また、上記の非協力交渉ゲーム理論を自由貿易協定の問題に応用し、FTAのような2国間の関税撤廃交渉を積み重ねても、国の規模に非対称がある場合には、世界の自由貿易に到達できないことを示した。この成果はBarriers to Global Free Trade through Bilateral AgreementsとしてReview of International Economicsに掲載が許可されている。また、企業内部のチーム形成や上司部下の階層構造を提携形成と非協力交渉ゲームのルールととらえて、企業組織の選択の問題を考察した論文The Choice of Organizational Form under Intrafirm Bargaining Rulesは、Journal of the Japanese and International Economiesに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提携外部性の存在する状況での非協力交渉ゲーム理論を国際貿易の関税自由化の問題に応用したBarrier to global free trade through bilateral agreementsは国際貿易の査読付き学術雑誌Review of International Economicsへの掲載が許可され、企業組織の選択の問題に応用したThe choice of organizational form under intrafirm bargaining rulesは、査読付き学術雑誌Journal of the Japanese and International Economiesに掲載された。学術雑誌への掲載という目標を達成することができている。 また、掲載にまでは至っていないものの、基礎となる理論研究ではNash bargaining solution under externalitiesとNash bargaining solution, core and coalitional bargaining game with inside optionsをワーキングペーパーとしてまとめることができ、後者については、ゲーム理論学会の世界大会で報告し、国内外の研究者から意見を聞き、議論を反映した上で改訂し、現在査読付き学術雑誌に投稿中である。 不完備情報での非協力交渉ゲーム理論についても、不完備情報のナッシュ交渉解と非協力交渉ゲームを考察した研究については、国内外の研究者に内容を報告し、数多くのコメントをうけ、現在、改訂を行っており、さらに、政治力についての不確実性が存在する下での政治的安定性と提携形成の関係を考察した研究もPolitical stability under asymmetric information of powersとしてまとまりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
非対称情報、不完備情報での非協力交渉ゲーム理論の研究およびそれに対応する協力ゲームの解概念であるナッシュ交渉解とコアの研究を中心に行う。不完備情報下でのナッシュ交渉解を実現する非協力交渉ゲームについては定常完全ベイジアン均衡点の存在の一意性が現在解決課題となっている。まずはその問題に取り組む。さらに、その研究の一部を構成している情報を持った計画者によるメカニズムデザイン(制度設計)の問題も同時に検討する。具体的には、公共プロジェクトの費用負担メカニズムの問題として考察を行う。また、より現実的な非対称情報での交渉ゲーム理論の研究として、中古車や住宅、土地などの財の品質についての非対称情報が存在する市場での情報の伝達や流出と交渉戦略の関係を考察するモデルの構築も行う。具体的には、Econometrica誌に掲載されたHorner and Vieille (2009)やDaley and Green (2012)の非協力交渉ゲームのモデルを出発点として新たな貢献を探るかたちで研究をすすめる。不完備情報での協力ゲームの解概念であるコアを用いた研究としては、政治的安定性を考察する研究とシャプレイ・スカーフの住宅市場の配分メカニズムを考える研究をすすめたい。住宅市場の考察についてはex post implementationの観点からいくつかの結果を既に得ることができているので、コアという安定性の観点からも考察を進める予定である。 上記のどの研究も既に既存の研究の検討と未解決部分の検討は終えているので、新たなモデルを構築し、分析を行い、論文として成果をまとめ、国内外の研究者との議論を重ねながら、内容の改善に努めていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
8月上旬に北海道(小樽商科大学、北海道大学、釧路公立大学)で国内外の経済学研究者による研究集会SWETに参加し、研究成果を報告し、不完備情報と戦略的提携形成の非協力交渉ゲーム理論について議論をしたい。また、8月下旬にスウェーデンのイエテボリで開催されるエコノメトリック・ソサイエティのヨーロピアン・ミーティングでの報告が許可されたので、学会に参加するための滞在費と旅費に研究費を用いる予定である。また、上記の学会の前後にヨーロッパのゲーム理論の研究者が所属する大学に短期間滞在し、議論や意見交換を行いたい。また、国内の研究者からも専門知識の提供や意見交換を行う機会を設け、研究の発展に努めたい。 現在、いくつかの研究が投稿中、または、投稿予定であるので、それらの論文の英語表現の改善のために専門業者に依頼し、英文校正を行う。さらに、論文投稿にあたって投稿料が必要となる雑誌への投稿も検討している。また、学術雑誌への掲載が決定した場合には、出版社から抜き刷りを購入し、国内外の研究者に配布する予定である。 さらに、国内外の研究者に研究成果を公開するためのホームページの作成にも研究費を使用する予定である。
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