提携・グループを形成することによる交渉上の対立を考慮した提携交渉非協力ゲームの交渉結果は、交渉結果がプレイヤーによる提携形成によって拒否されてしまうことがないという協力ゲーム理論のコアと密接な関係を持つことが知られている。今年度は、不完備情報の提携交渉ゲーム理論の分析の前段階として、不完備情報のコアの概念を用いた分析を行った。 まず、各プレイヤーがある政治力、または、武力を所有していて、プレイヤーが提携を結ぶことで他のプレイヤーより大きな政治力をもつことができれば、弱いプレイヤーのもつ富をすべて自由に処分できることになる「政治ゲーム」を考察した。この状況は富の収奪戦争とも対応する。論文「political stability under asymmetric information of powers」において、プレイヤーの提携形成によって富の収奪が行われることがないようなコアの意味で安定的な富の分配状態を明らかにした。また、プレイヤー間での非対称情報の存在が安定的な富の分配にどのような影響を与えるかも見た。情報の非対称性、いわゆる、不完備情報のコアを用いた応用研究はほとんどなく、この研究は新しい応用例を示したものとして意義がある。 次に、安定的なコア配分、および、コア配分を実現するメカニズムについて明確な結論が得られているシャープレイ・スカーフの住宅市場についての考察を行った。既存研究では、プレイヤーの私的情報は、プレイヤーの住宅についての選好だけが考慮されていたが、そこに、交渉ゲーム理論ではよく考察される財の品質を導入した。そのことで、コア配分がもつ効率性や個人合理性を満たすもので、かつ、事後的な意味での正直な情報表明を引き出すメカニズムは、まったく存在しないか、住宅の交換をまったく許さないものしか存在しないことを示した。この成果は、研究集会SWETにて報告された。
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