研究課題/領域番号 |
23530236
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 努 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40281779)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | イギリス / アメリカ / ドイツ |
研究概要 |
3.11大震災と原発事故を受けて、本研究のテーマ「環境駆動型」資本主義の研究は、いっそうの関心を呼び起こし、研究成果を発表ないし公刊する機会に恵まれたため、当初の研究計画を超えて、成果を出すことができた。雑誌に掲載された論稿「いま目の前にある危機の本質――原発事故を考える」(『情況』)および「大震災で私たちが試されていること。」(『潮』)のほか、論説「東京電力福島第一原発の何が問題だったのか(その1/その2)」、「原発に責任、持てますか?」は、ネット上の『シノドス・ジャーナル』および『ウェブ論座』で公開・配信された。また書籍紹介「大震災を乗り越えるためのブックガイド 社会思想編」が『日経アソシエ』に掲載された。 次に、朝日新聞北海道支社と北海道テレビ放送(HTB)主催の北海道フォーラム「2011『3・11大震災をどう乗り越えるか~新たな道をめざして~』」に、登壇者の一人として参加し、その内容はテレビで放送されると同時に、朝日新聞の二つの記事「大震災後の社会考える」および「原発頼らぬ未来描く」にて紹介された。 日本学術会議では、北海道地区会議市民公開講演会シンポジウムとして、「グリーン・イノベーションと地域社会システム」が2011年8月4日に企画され、私はその報告者のひとりとして参加した。また北海道大学大学院経済学研究科では昨年末、地域経済経営研究センターが成立され、そのセンターの研究会の第二報告にて「3.11後のエネルギー政策を考える」を報告した。この他、インタビューによる新聞記事「電力供給に市場性導入を」『北海道新聞』および、座談会「定池祐季×藤井賢彦×佐伯浩×橋本努「明日への提言 若者が時代を変える」」『リテラ・ポプリ』北海道大学広報誌に参加し、本研究の成果を社会に向けて発信することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の当初の計画では、平成23年度において、三つの課題を掲げた。第一に、環境問題の指標の分析とそのテーマをめぐる実践の言説を研究すること。この課題については、一応の検討を終えている。次年度はその成果を公表したい。第二に、人文諸学の伝統にある環境思想のなかから、現代のグリーン・ニューディール政策全般に意義深いと考えられる諸理念・諸思想を検討することを課題としたが、これについても一応の検討を終えている。第三に、これらを踏まえて、現代の環境駆動型の資本主義を担うにふさわしい教養のあり方を模索し、環境経済思想として提示すること、という課題を掲げたが、このテーマについては、すでに、さまざまな媒体でその成果を公刊する機会を得た。 初年度である平成23年度は、主としてこれら三つの課題について、そのための資料収集を目的としていたが、その目的を達成するだけでなく、成果の一部を公開することができた。上記に記したように、初年度の達成度は、研究のさまざまな成果にあらわれており、研究は計画した以上に進んでいるとみなすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
3.11大震災と原発事故は、日本のエネルギー政策を根本的に見直す契機となっている。それまで政府は、原子力発電所の増設によって二酸化炭素排出量を減らし、二酸化炭素排出量取引においていっそうの進展を展望していたが、原子力発電に依存しない環境社会を展望する場合には、一時的に二酸化炭素排出量取引から離脱し、新たに別の目標として、自然エネルギーを用いた発電に重心を移す必要がある。そのために本研究でも、当初予定していた二酸化炭素排出量取引の思想的・政策的課題の探究を変更して、自然エネルギーの固定価格買取制度の問題を探究したい。この制度がいかにして環境駆動型の資本主義のビジョンと結びつくのか、またこの制度がいかにして新自由主義の思想的ビジョンと結びつくのかについて探究する。 もう一点、当初計画していたもう一つの研究、すなわち北欧型の新自由主義のモデルについては、そのまま予定を代えずに実施する。現代の北欧型社会は、従来の社会民主主義に代わる新たなビジョンを提起している。それは新自由主義を否定するよりも、むしろその良質な部分を多く取り入れることによって成り立っているように思われる。その内実について検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定では、初年度に旅費を40万円計上していたが、初年度においてはこの予算を部分的にしか消化することができなかったため、平成24年度は、二回の海外旅行を計画している。一つは、ドイツにおける環境政策の実態を調べるための資料収集であり、もう一つは、研究成果を報告するための学会参加(フランスにおける、日本とヨーロッパ諸国のあいだの経済学史学会コンファレンス)である。この学会では、経済危機をめぐる報告を予定している。 国内旅費においては、私が主催している「現代の経済思想」研究会への参加と運営のために発生する費用が生じる。この研究会では、現代の資本主義を多角的に捉えるためのさまざまな視点から議論を継続しており、本研究と密接に関係している。平成24年度は、そのための旅費を計上している。 この他、物品費については、当初の予定通り、関連する研究書(主として洋書)を購入する予定である。ただし英語での研究成果を公表する際に、英文の校正に必要な経費が生じる場合には、それをあらたに計上する予定である。
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