研究課題/領域番号 |
23530236
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 努 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40281779)
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キーワード | 新自由主義 / 資本主義 / 環境 |
研究概要 |
平成24年度は、引き続き十分な成果を得た。前回の報告書に書き損じたことだが、23年度の末には、日本学術会議の社会学委員会理論分科会(第22期・第2回)において報告する機会があり(「近代・ポスト近代・ロスト近代」2012年3月12日)、また、論文「グリーン・イノベーション論」および「グリーン・イノベーション論(報告補遺)」を、それぞれ『地域経済経営ネットワーク研究センター年報』第一号(北海道大学)2012年3月に掲載することができた。さらに、本研究の中心課題である「環境駆動型の資本主義とはいかなるものであるか」について、これまでの研究をまとめるかたちで、単著『ロスト近代 資本主義の新たな駆動因』弘文堂を、2012年5月に刊行することができた。本書に対しては四編の書評と一回の合評会を賜ることができ、一定の社会的評価を得た。社会的な情報発信としては、ネット配信にて、「「エコロジカル・フットプリント」と人間開発――資源消費量を減らしながら、社会を発展させることは可能か」(2012年4月23日)や「ロスト近代とは何か(1)」、「同(2)」 (2012/5/15, 6/15)を発表した。新聞においては、インタビュー「冬の節電 専門家に聞く 「脱原発依存」の好機に」2012年11月3日『北海道新聞』にて、研究の成果を発信した。また、北海道大学スラブ研究センターにおける研究会報告では「北欧型新自由主義の到来」(2012年6月21日)を報告し、広範な研究者たちと議論を深めることができた。このほか、私の主催(大会実行委員長)で、経済社会学会第48回全国大会(2012年9月1日-2日北海道大学)を開催し、その際の大会テ-マは、本研究と深く関わる「3.11後の環境と経済社会」とし、大会全体と本研究の関連をもつことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、まず、指標に基づく環境問題の分析を計画したが、これは単著『ロスト近代』においてさまざまな形で示すことができた。また、環境運動の現実の分析という課題については、遠野まごごろネット主催の被災地ボランティアへの参加、ならびに、北海道大学経済学部におけるディベート大会(テーマは原発は是か非か)を通じて、主として学部における演習をベースにしつつ、一定の成果と達成を得た。自然エネルギーの固定価格買取制度の問題の探求と、この制度がいかにして環境駆動型の資本主義のビジョンと結びつくのか、またこの制度がいかにして新自由主義の思想的ビジョンと結びつくのかについての探究については、同じく単著『ロスト近代』を通じて、あるいはその一部である論文「グリーン・イノベーション論」において、詳細に明らかにすることができた。また二酸化炭素排出量の取引を含めて、環境のための人工市場や環境技術の導入が、いかにして環境駆動型の資本主義のビジョンと結びつくのか、という問題についても、同書において明らかにした。当初予定していたもう一つの研究、すなわち北欧型の新自由主義についても同様に、単著『ロスト近代』においてその分析の中心を理論化し、公表することができた。以上の成果をもって、当初予定していた研究計画は、十分に達成することができたといえる。ただ一つ残念なことは、尖閣諸島の問題が過激化したことで、予定していた北京大学における講演が中止になったことであり、国際的な情報発信という点では、準備はしたものの、予想外の政治的理由で適わなかった。
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今後の研究の推進方策 |
残された二年間の研究計画は、すでに単著として公表した体系的な分析を継承して、その応用や、関連する諸問題にアプローチし、環境駆動型の資本主義(とりわけその制度携帯としての北欧型新自由主義)について、その理論と現実、あるいは政策と実践の面から成果を出していくことである。例えば、国際会議における報告、国内の学会における報告、関連する諸問題(とりわけ思想的・理論的な問題)に関する論文執筆、成果の社会的情報発信、などに力を入れていく。具体的には、今後一年間で、日本社会学会と学術会議の共催によるシンポジウムでの報告、経済社会学会における報告、国際法哲学会における報告、経済学史学会におけるシンポジウム「ハイエクとミュルダール」(企画ならびに司会を担当)を計画している。平成26年度は、研究の成果を継続的に公表しつつ、意義深い研究に発展させたい。発展の方向性として、環境駆動型の資本主義の制度基盤たる「北欧型新自由主義」の理念を歴史的に探り、また新自由主義に対する最近の批判を検討しつつ、北欧型新自由主義の政策的な有効性を検討すること、新自由主義の理論的・思想的な基盤であるハイエクとその論敵たちの研究を踏まえて、思想的次元における新たな展開を進めること、などが考えられる。環境駆動型の資本を有意義に利用するための構想について、さらに研究を進めたい。その際に問題となるのが、新自由主義概念の変容である。現代における新自由主義の用語法は、ハイエクやM・フリードマンの用語法をこえて、ケインズ主義やその他の思想を含むものとなっている。さらに、新自由主義の概念は、批判者たちによって用いられることが多く、擁護者によって用いられることが少ない。この概念を整理したうえで、論争や対立の議論を明確にすることも合わせて必要になるだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度(平成24年度)の予算の一部(七千円弱であり、全体の1%程度である。)を未使用にした理由は、本年度の国際大会が、遠方であることを考慮したためである。平成25年度は、国際会議における報告のために予算を計上しているものの、その開催場所がブラジルの都市ベロ・オリゾンテであることが判明したため、予想以上に旅費がかかると考えられる。その費用を優先して計上し、額に応じて柔軟に対応することを検討しなければならない。むろん、七千円弱の未使用額では、追加的に想定される旅費のすべてを補完できないため、本年度の旅費については、来年度の旅費を削るか、あるいは本年度の他の予算を削るか、あるいはその両方の対応によって、オーバーする部分を捻出したい。
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