研究課題/領域番号 |
23530241
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
江里口 拓 西南学院大学, 経済学部, 教授 (60284478)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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キーワード | ホブハウス / ニュー・リベラリズム / 機能 / 富の社会的要素 / 垂直的再配分 / リベラルリフォーム / 救貧法少数派報告 |
研究実績の概要 |
本年度(平成26年度)は,ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(以下,LSE)の初代社会学教授に就任したL.T.ホブハウスの経済思想について,同時代のリベラルリフォームおよび救貧法少数派報告との関係について,深く切り込んだ研究を行った。研究の途上で,リベラルリフォームのイデオローグであると漠然に理解されてきたホブハウスに,実はウェッブ夫妻ら少数派報告との近似性が見られることが次第に明らかになってきたことは本年度の成果として意義がある。具体的には,ホブハウスはベヴァリッジらの社会保険的(水平的再配分)ではなく,累進所得税,公的扶助のような垂直的再配分において,ウェッブ夫妻ら少数派報告と近似性がみられた。ただし,その場合の類似点のロジックは,本研究の主要テーマであるウェッブ夫妻流の行政学においてではなく,トーニ-,ティトマスらに続くような社会市場論に近いものであったことが具体的に分かってきた。ホブハウスは,近代社会における富には,社会的要素が含まれており,これを補うには市場による再配分のみでは非効率であり,国家を含めた様々な社会レベルにおける再配分が必要であることを主張していた。キーワードは「機能」であり,これはトーニーら後の倫理的社会主義者などの社会的市場論の先駆であると見ることが出来る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の開始初年度(2011年度,平成23年度)における勤務先の変更(愛知県立大学→西南学院大学)による遅れが,現在も響いている。どちらかと言えば,トーニー,ティトマスらの社会的市場論への個別研究の進展を計画していたものの,より原理的な面での考察の深まりが見られた。特に,昨年度に修正して提示した作業仮説,すなわちLSE行政学から社会市場論への系譜におけるホブハウスの重要性を,確認することで,ウェッブ夫妻(LSE行政学),ホブハウス(社会市場論)という2つの系譜の緊密性と差異について厳密に検証していくための土俵が整いつつある。本年度は,ホブハウスの社会市場論について,研究成果である「L.T.ホブハウスの福祉政策論と経済思想:富の社会的要素への所有権」『西南学院大学経済学論集』49巻4号, pp.1-26,を提出することで成果について具体的な形を出すことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
新年度(2015年度,平成27年度)は,5年間の研究生計画の最終年度ということになるので,研究成果の公表として,特に,国際学会への参加や英語論文の発表に力点を置きたい。具体的には,9月に小樽商科大学で開催されるESHET-JSHET(日欧経済学史学会合同会議)への出席・発表により,ウェッブ夫妻についての研究代表者の研究成果の公表を試みると同時に,ホブハウスについて,進化論との関係での日本語論文にプラスして,英語論文の執筆をし,海外雑誌への投稿を試みる。平行して,オックスフォード大学ベン・ジャクソン氏,エクセター大学リチャード・トーイ教授らとの研究交流を進め,ウェッブ夫妻,ホブハウス,トーニー,ティトマスらの行政学と社会市場論における関係性,そしてイギリス社会改良運動における位置づけについて考察を深めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画の初年度(2011年度)における研究機関変更(愛知県立大学→西南学院大学)による,研究環境の変化による研究の遅れが現在も響いている。海外からの研究者の招聘についても,当初予定していた2月頃が,大学業務の集中による不可能となり,断念することになった件もある。
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次年度使用額の使用計画 |
J.A.ホブソンおよびジェームズ・ミード関係の著作集の追加的な収集を行う。前者については,関連する研究所を収集し,後者については第二次大戦度のケインズ政策の実現過程という視座から,戦後イギリス福祉国家形成における行政学と社会市場論との関係についても目配りを行う。また,前掲したように,英語論文の作成と英文校正,国際学会への参加などにも予算配分を予定している。
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