最終年度は,本計画の総仕上げとして,イギリス・オクスフォード大学を中心に,マイケル・フリーデン(マンスフィールドカレッジ名誉教授),ベン・ジャクソン博士(ユニバーシティ・カレッジ准教授)らとの研究成果の情報交換を行った。具体的には,オクスフォード・ベリオルカレッジ人脈に関係していたL.T.ホブハウス,J.A.ホブソン,R.H.トーニーらについての研究成果の事前交換を行った。具体的には,ダーウィン,スペンサーらの19世紀後半における生物学の科学史上での知見が,社会科学に影響を及ぼし,特にイギリス理想主義哲学の近傍におけるイギリスニューリベラリズムの形成に影響を及ぼしたとする,フリーデン教授の知見をより深めつつ,彼らにおける,社会経済思想の特徴についてアイデアを交換することができた。また,他方で,塩野谷祐一らによる日本のイギリス理想主義研究の成果についても吸収することができた。他方で,ベン・ジャクソン准教授らとの交流を経て,イギリスにおけるリベラル左派,労働党右派が,平等という概念について,単なる機会の平等を超えた,実質的平等という概念を重視していたことの内実について理解を深めることができた。こうした平等観は,サッチャリズム以降,特に,イギリスにおいて耳にすることが少なくなった概念であるが,イギリス左派の再建においては非常に重要な概念であることが分かった。同時に,いわゆるLSEとオクスフォード大学の人脈的関連性の緊密さについてもあらためて,知見を深めることができた。
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