研究課題/領域番号 |
23530242
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
米田 昇平 下関市立大学, 経済学部, 教授 (20182850)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フランス経済学 / 経済学の起源 |
研究概要 |
17世紀後半のフランスの新思潮を源泉とする功利主義的な経済学の生成・展開を浮き彫りにするため、ピエール・ニコルやジャン・ドマの影響が窺えるアベ・ド・サン=ピエールの商業社会論とその影響を強く受けたムロンの商業社会論とを対比しつつ、その影響関係などを研究した。サン=ピエールのOuvrages de politique et de morale(1733-1744)の中のいくつかの論説を読み込んだほか、ムロンのEssai politique sur le commerece(1736)の翻訳を進めつつ、ムロンの論説を改めて読み込む作業を行った。 ムロンの論説は、インダストリー(生産)、奢侈(消費)、公信用(貨幣・信用システム)という近代経済の基本構造の全体像を初めて捉えた画期的な意義を持つものであったことを再認識するとともに、ムロンの経済認識の背景にある功利主義的な人間観や社会観が、17世紀のフランスの新思潮とその影響を受けたサン=ピエールの思想の延長上に位置していることを確認することができた。イギリスでは18世紀を通じて生産局面を重視する経済ビジョンが優位を占めていくように見えるが、フランスにおいては、(消費)欲求の本源性に着目した消費主導の経済ビジョンが目立った特徴をなしていく。この特徴の析出によって、言い換えれば、ボワギルベール、サン=ピエール、ムロンの論説の共通項を浮き彫りにすることによって、経済学のフランス的起源をめぐる新たな展望が開かれるとの思いを強くすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ムロンの翻訳作業にかなり注力したこともあり、当初、計画していたサン=ピエール、ムロンとモンテスキューとの関連についてまで研究を進めることができなかった。この点ではやや遅れているが、しかし他方で、ムロンの難解な論考を出版目的で丁寧に翻訳したことにより、ムロンについてかなり深い読み込みをすることができた。そのせいで経済学の生成史上におけるムロンの論考の画期性をこれまで以上によく理解できた点で、この遅れは大いに有効であった。ムロンの経済思想の影響が顕著なモンテスキューの理解にも活用できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
『経済学のフランス的起源』(仮題)の出版を目指して、24年度には、サン=ピエールとムロンとモンテスキューの商業社会論の関連をまとめた論文(第4章にあたる)を執筆するとともに、当初の計画では25年度としていた「初期の奢侈論争」(第6章にああたる)にかかわる研究を24年度の後半に行う。25年度にはその研究を継続するともに、最終年度として、構想中の著書の序論にあたる「功利主義と経済学の起源―世俗的倫理と世俗化の論理」のテーマで、おもに17世紀の文献を読み込んで、この研究テーマの全体的な展望が得られるような取りまとめを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
アベ・ド・サン=ピエール関連の文献および18世紀フランスにおいて奢侈を論じた文献の収集を中心に、研究費を使用する。とくに後者の文献については、マイナーな文献を含めてできるだけ幅広く集めることにしている。ほか、資料収集のため、また研究会への出席のための出張費、英文校閲料などへの使用を予定している。
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