研究課題/領域番号 |
23530242
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
米田 昇平 下関市立大学, 経済学部, 教授 (20182850)
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キーワード | フランス経済思想 |
研究概要 |
17世紀後半以降、商業社会の到来と、世俗化の進捗に伴う価値規範の転換という新しい事態に促されて、フランスにおいて人間と社会に関する功利主義的な新たな見方が登場するが、この新思潮の延長上で、商業の精神に導かれる商業社会の展開と文明の進展とを重ね合わせ、商業社会の構成原理およびその発展の論理を探求したのが、アベ・ド・サン=ピエール、ムロン、モンテスキューであった。今年度はこの三者の商業社会論を中心に研究史、彼らがフランス経済学の生成に果たした歴史的意義の解明に努めた。 功利主義のリアリズムに徹したアベ・ド・サン=ピエールは、一方で公共的利益を優先する立場から奢侈(消費の自由)を批判し、商業と製造業の発展を促すためには、賞罰の制度を設けるなど、私欲と公共的利益の一致をもたらす巧みな統治が必要であると考えた。モンテスキューは奢侈と労働による商業社会の発展を展望するものの、貴族中間権力を紐帯とする身分制秩序の維持によって政治的自由と安定を図ることを何より重視し、「商業」の利益をそれに優先させることは決してなかった。経済学の知見によって啓蒙の課題に向き合ったという点では、ムロンが際立っている。彼らは、ともに商業社会の進展に伴う(あるいはこの進展の因果をもなす)世俗的倫理(功利主義的倫理)の普及によって生じた時代の大きな変容を受け容れ、商業の効用や経済の独自の領域の存在を認めたが、この新たな状況を前にして、その立ち位置は三者三様である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ムロン(Essai politique sur le commerce,1736)の翻訳作業と並行して、アベ・ド・サン=ピエール、モンテスキューを読み込んだが、これら三者のフランス経済学の生成史上の位置をかなり明らかにすることができた。「啓蒙の経済学―アベ・ド・サン=ピエール、ムロン、モンテスキューの商業社会論をめぐって」と題して論文にまとめることができた。構想中の著書(『経済学のフランス的起源』仮題)の第4章を構成することになる。
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今後の研究の推進方策 |
科研費補助金の最終年度であり、構想中の著書の原稿をほぼ完成させたいと考えている。まず、奢侈論争に関して、これまで扱ってこなかったマイナーな著作家や、さらにフィジオクラートの奢侈論まで含めて、フランスにおける奢侈論争の総括的な論文を書く(構想中の著書の第5章となる予定)、次に『経済学のフランス的起源』の序論(あるいは第1章)にあたる「功利主義と経済学の起源―世俗化の倫理と論理」のタイトルで、17世紀後半のフランスの新思潮、モラリスト(ラ・ロシュフコー、ラ・ブリュイエール)、ジャンセニスト(パスカル、ニコル、ドマ)、リベルタン(ベール)、あるいはアウグスティヌス主義やエピクロス主義に関して、包括的な研究を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
18世紀フランスにおいて奢侈を論じた文献と17世紀後半のフランスの新思潮にかかわる文献の収集を中心に、研究費を使用する。ほか、資料収集のため、また研究会への出席のための出張費、英文校閲料などへの使用を予定している。
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