研究実績の概要 |
本年度は, 研究の最終年度のため,「中央銀行の独立性ーソーントンとリカードウ」の論文の執筆に着手した。この論文は,「ヘンリー・ソーントンの中央銀行の独立性」を基礎にして,さらにその結論をリカードウの金融独立説と比較検討することで,銀行制限期におけるイングランド銀行と政府との関係を浮き彫りすることを意図している。 1797年からの銀行制限期には,金融従属説と金融独立説とが対立していた。公信用の膨張がイングランド銀行の信用膨張をひきおこすというのが金融従属説で,この説はイングランド銀行総裁やボイドが主張していた。またリカードウもこの説を踏襲した。これに対し,ソーントンは金融独立説を主張し,イングランド銀行は政府の基金原理や議会の監視活動が機能していれば,イングランド銀行は独立していると説いた。しかし,リカードウは,イングランド銀行は一面では政府に従属しているが,他面ではイングランド銀行は政府に対する貸付や国債の引受業務によって巨額の利潤や手数料を得ているので,それは将来の国民の税負担が増えると主張した。この問題を解決するために、政府はイングランド銀行から紙幣発行権を奪い,国立銀行にそれを付託し,さらに発券業務と銀行業務とを分離し,金融政策を実施すればよいとリカードウは提案した。 今後は,貨幣と国家との関係を,J.ステュアートの公信用論のなかで検討し,政府の財政規律の維持が貨幣価値の維持と経済過程の順調な運行を保証することを論証したいと考えている。
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