研究課題/領域番号 |
23530245
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
森岡 真史 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (50257812)
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キーワード | 経済体制 / ロシア革命 / ソビエト経済 / ブルツクス / 資本主義 / 社会主義 / マルクス主義 / 生存権 |
研究概要 |
著書『ボリス・ブルツクスの生涯と思想――民衆の自由主義を求めて』(450ページ)を刊行し,20世紀前半の経済体制論争の中心的論題たるロシア革命とソビエト社会主義体制の同時代における透徹した理論的・思想的な批判者でありながら,長く忘却されてきたブルツクスの先験的洞察に満ちたロシア=ソビエト経済論の全体像を明らかにした。 同書では,他の社会主義批判者に見られないブルツクスの注目すべき特徴を,①理念的に構成されたマルクス主義的社会主義の考察にとどまらず,現実にロシアで生み出された社会主義体制とその五ヶ年計画に至る発展の諸段階について,具体的現実の観察に基づく系統的かつ批判的な分析を展開したこと,②マルクス主義だけでなく,経済問題の根本的解決の方策を土地の均等配分に求めるナロードニキ主義に対する首尾一貫した批判者でもあったこと,③革命的社会主義と思想的に対峙しながらも,自由放任主義の立場はとらず,民主主義国家および国家から独立した社会運動を伴い,非資本主義的な生産組織が,副次的・補完的にではあるが資本主義企業と共存する,多元的な資本主義体制を擁護したこと,の三点に求め,それぞれの点について詳細な議論を行っている。 この他に,論文「社会主義の歴史と残された可能性――社会主義的規範の再考」では,人類の抑圧からの解放をめざす社会主義思想から抑圧的な体制が生まれた最大の原因は,社会主義思想の革命的潮流が、民衆の抑圧からの解放を私的所有と自由市場の廃絶という変革を通じて達成しようとし,その実現のために反規範主義的な態度をとったことに求めたうえで,社会主義的諸規範のうち、万人が人間らしい生存と発達の権利をもつという規範は、平等な分配と労働の義務を要求する規範としてではなく、生存と発達の基本的機会の制度的保障を根拠づける規範として理解するならば、現代のでもなお十分に擁護に値することを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究では,著書『ボリス・ブルツクスの生涯と思想』の刊行によって,経済体制論争の史的展開,とりわけ,十月革命とソ連の形成・発展の時期におけるそれを,亡命ロシア人経済学者ブルツスクの貢献に焦点をあてる形で整理する」という当初に設定した課題の一つを基本的に達成することができたと考える。ブルツクスの議論を体系的に再構成し,1920-30年代の資本主義と社会主義をめぐる思想的・社会科学的論争の中に位置づけけたことは,経済体制論の展開をめぐる従来の研究における一つの大きな空白を埋める意義をもっている。 また,同書の第6章においては,経済計算論争に関連して,ミーゼスやハイエクらオーストリア学派の経済学者による社会主義批判とブルツクスによる社会主義批判の共通性と相違点の比較に加えて,彼に先行する経済学的な社会主義批判者の貢献にも言及した。 さらに,規範的観点からの社会主義の再考察に関する論文では,資本主義への規範的批判と,市場・私的所有の機能に関する実証的認識との間に存在する深い結びつきを明らかにした。これらの成果を通じて,近代の(とりわけ『資本論』刊行以降の,資本主義に代わる体制として構想・構築された)社会主義体制に対する批判的分析の発展史を明らかにするという課題は,着実に進展しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究においては,冷戦終結後のポスト社会主義時代における社会経済体制をめぐる理論的対抗の考察にとりくむ。ソ連・東欧における,マルクス主義とロシア革命に思想的・歴史的期限をもつ社会主義体制の崩壊後,経済体制をめぐる対立の焦点は,市場や利潤追求に基づく資源配分が支配的となる領域と,非市場的・非営利的な資源配分が支配的となる領域について,どこでどのような境界を設けるのかという問題に移行してきた。市場への外的な介入や規制はまた,市場をよりよく機能させるために必要となる場合もある。これらの問題を検討するにあたっては,規制や再配分の規範的基礎についての思想的考察と,それらの機能についての実証的・経済学的考察の双方が必要である。例えば,全市民に一定額の給付を保障するベーシック・インカムのような制度は,一方では生存権の体現として,他方では,社会保障の簡略化の方策として,異なる側面から提唱されている。 最終年度の研究では,こうした点を考慮しつつ,従来の(革命的)社会主義に代わって提唱されている<望ましい社会経済体制>に関する種々の構想とそれらに対する批判について,その基礎にある規範的立場および経済学的認識に光をあてていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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