本年度は計画最終年度なので、研究成果の口頭報告機会(学会講演三件、うち招待二件(一件は国際学会での基調講演))を多くし、フィードバックを得るようにした。この経験を参考に、本研究課題の成果をまとめたディスカッションペーパーを改訂中である。 本研究課題の期間中に、攪乱・模造データの個票開示リスク評価について部分的な解を得ることができた。特に受容可能な個票開示リスクの客観的な判定方法の提案が重要な結果と思われる。これにより、匿名化の社会的利用に関するボトルネックが軽減できる。また確率分割の周辺分布について組み合わせ論的評価にも成功し、個票開示リスク測度の厳密な算出に貢献出来た。 個人情報保護法や統計法では、個体識別が可能か否かで情報保護の必要性を定める。しかし現在この判定方式は不明確かつ主観的で、改善のための明示的議論の対象になっていない。従って研究代表者は個体識別可能性について明確な判定方式を提案した。このような判定方式に関する既存研究は存在するが、個体識別可能性の定量評価について閾値を定める理論が欠けている。この点について研究代表者の方法では、個体識別が起きていないという観測可能な事実に基づいて閾値を推定する。また部分的にしか観測できずに定量評価できない情報を、過去の事例と等しいか否かという判断しやすい方法で利用する。 このような観測に基づいて意思決定する態度は、エビデンスに基づいた匿名化と呼ぶのがふさわしい。この立場から、匿名データ審査体制についての改善点も指摘した。
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