研究課題/領域番号 |
23530254
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
得津 一郎 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (80140119)
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研究分担者 |
伴 ひかり 神戸学院大学, 経済学部, 教授 (70248102)
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キーワード | 国際情報交換(アメリカ,オランダ) / 国際産業連関表 / 生産ネットワーク / 世界金融危機 / 貿易の崩壊 / CGEモデル |
研究概要 |
GTAPデータに基づく独自の国際産業連関表およびオランダフローニンゲン大学のWIODプロジェクトの作成した国際産業連関表(1995-2008)に基づき世界経済の相互連関が分析可能なモデルを開発した。 GTAPデータを拡張したデータに基づく分析は研究分担者の伴ひかりが中心として進められ,特にFTAの経済効果について重要な知見を得ることができた。地域を東アジアに限定した場合,FTAがマクロ経済に及ぼす影響は大きくなく見えるが,結果を産業別に詳細に分析すれば,それは生産ネットワークを深化させる効果が大きいことが明らかになった。 一方,WIODの国際産業連関表に基づき,直接的に世界の生産ネットワークを分析する試みは研究代表者の得津によって進められているが,十分な成果を得たとは言い難い状況にある。モデルの開発およびそれに基づく分析は既に終わっているが,国際的生産ネットワークの役割ついての従来の研究結果とは正反対の研究結果を示したからである。具体的には,作成したモデルは,2008年の世界金融危機における世界規模での貿易の縮小をまったく追跡することができない。これまで,当時の世界規模での貿易の縮小の7割は国際的生産ネットワークによって説明されると言われていたが,包括的,自己充足的なWIODデータに基づくわれわれの分析ではたとえ従来の方法に正確に従ったとしても20%を説明するに過ぎない。すなわち,世界貿易の構造の劇的な変化に際し,生産ネットワークの果たす役割は極めて小さいことが明らかになった。 このことはわれわれのモデルの欠陥というよりは,むしろこれまでの研究が基礎としていた統計データが不十分であり,そのため分析結果の核心部分が曖昧になっていたためである。このことを包括的・自己充足的な統計データに基づいて再検討することで明らかになったという点で本研究は一定の役割を果たしたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」でも述べたように,WIODの国際産業連関表による生産ネットワークの分析は,従来の研究とは異なる結果を示している。具体的には国際的生産ネットワークによって説明できるのは近年における貿易の変化のごく一部分であり,むしろ頑健な「国際的生産ネットワーク」は貿易の構造を安定化させる効果が大きいことがわかった。そのため,モデルの構造を根本的に考え直さなければならない状況である。 これはわれわれのモデルの欠陥というよりは,一時点の断面データに基づく従来の研究が,需要構造の変化という分析の核心部分について推測値を用いていたため,生産ネットワークの影響について過大評価をしていたためと考えられる。われわれはこの問題を解決すべく時系列産業連関表を用いたためこの点が明らかになった。また従来の研究のように固定係数を用いた分析では,生産ネットワークのダイナミックな変化を追跡することは困難であることが明らかになった。2008年表と2009年表(前年度価格表示の実質表)との貿易の現実の変化を,各国の生産量の変化によってもたらされる部分と投入係数の変化によってもたらされる部分に分解したところ,前者は23%後者は77%である。 この意味においてわれわれの呈示する可変投入係数モデルの正当性が裏付けられているが,実は可変投入係数モデルの現実説明力は伝統的な固定投入係数モデルと大差はなく,むしろ価格に対する反応は貿易の変化を抑制する傾向がある。この点を解決するため,輸入価格プレミアムを導入するモデルを作成したが,プレミアムを外生的に与える限り,価格プレミアムを誘因とする不均衡の発生は結局はプレミアムを正確に解消する方向に動くとくことを数学的に示すことに予想外に時間がかかったことが研究の進捗に負の影響を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で述べた問題点を解決する方法として,現在輸入価格のプレミアムを供給および需要の弾力性に直接的に組込む方法を検討しており,未公表ではあるがその結果を報告する論文を作成している。すなわち,世界金融危機における貿易金融の影響を,輸入価格に対するプレミアムの付加による相対価格の変化としてとらえるモデルを開発した。具体的には生産物の供給関数および中間投入物の需要関数のヤコブ行列に価格プレミアムを直接適用し変形する。それらをもとに超過供給関数のヤコブ行列を新たに作成するというような根本的な方針転換を検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の最終年度にあたり国際ワークショップを組織し研究成果を報告するため,参加者の旅費等が必要となる。より多くの外国人の参加を容易にするため海外での開催を計画している。そこでの報告論文に加筆修正したものを英文論文とし査読付き雑誌に投稿する予定である。同時に研究分担者が進めているGTAP表による経済分析についても,最終結果を査読付き雑誌に投稿する予定であり,いずれも,英文校閲料,投稿料との支出が必要となる。
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