研究課題/領域番号 |
23530270
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丸川 知雄 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (40334263)
|
キーワード | モバイル社会 / 日本 / 中国 / 韓国 / イノベーション |
研究概要 |
平成24年度には中国の携帯電話産業において奇形的な発展を見せている「山寨産業」(=ゲリラ携帯電話産業)に着目した。メーカーの多くが何らかの違法行為に手を染めているにもかかわらず、日本の携帯電話の年間販売台数の5倍以上にも及ぶ規模にまで膨れあがったこの産業がなぜ誕生し、なぜ拡大したのか。どのような社会的経済的背景があるのか。この疑問は本研究の目的からして必ず明らかにすべき問題だと考えたからである。 ゲリラ携帯電話産業とは2004年頃に中国深セン市を中心に誕生した。中国内陸部農村の低所得者、さらには南アジアやアフリカなどの低所得者に向けた安価な携帯電話を企画し、製造し、販売している。 本研究の目的は、各国社会における需要がモバイル産業のイノベーションをどのように規定するかを探ることにあったが、中国のゲリラ携帯電話産業は、中国内陸および発展途上国の需要に即したイノベーションのあり方を鮮明に示している。ゲリラ業者に対するインタビューでは先進国の携帯電話産業には存在しないようなイノベーションを特定し、それがどのような需要に応えているものなのかを明らかにした。 また、世界の低所得者の需要をどのように察知し、イノベーションに反映させているかを調査した。ゲリラ業者の多くは従業員数が数十人程度の中小零細企業であり、企業自身でマーケティング調査を行う態勢を持っていない。その代わりに深センのゲリラ携帯電話の巨大な市場というプラットフォームを介してバイヤーとメーカーが直接に接触し、製品の売買とそれに付随するコミュニケーションを通して需要が伝達されている。また、実際に製品を販売してみての試行錯誤を通じて新たなイノベーションにつながっている。 ゲリラ携帯電話産業の以上のような諸側面を明らかにして研究成果を執筆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の構想では日本、中国、韓国を対象として社会の需要と携帯電話産業の対応関係を明らかにできると考えていたが、産業自体が各国でめまぐるしく変化したため、ある時点で切ったスタティックな比較に余り意味が見いだせなくなった。研究を計画した当初は各国の技術の相違が鮮明であるようにみえたが、その後数年のうちに各国とも市場がスマートフォンによって席巻され、国ごとの相違がみえにくくなった。そのためアンケート調査によって各国の需要の相違を浮き彫りにするという構想自体が軌道修正をよぎなくされている。 平成24年度に中国のゲリラ携帯電話産業に着目したのは明らかに産業が他国とは異なる方向に進化した典型例だからであるが、当初は国内需要に対応した産業だったものの、急速に輸出志向性を強めているため、国内社会との対応関係がかえって不鮮明になった。各国のダイナミックな変化をとらえうるような仮説を再構築する必要を感じている。
|
今後の研究の推進方策 |
日中韓でモバイル通信技術が実際に社会のなかでどのように使われているかに関してまだ十分な調査ができていない。当初はそうした使用の実態と産業のイノベーションとの間に深い関係があるという仮説を持っていたが、いまではイノベーション自体が収斂する傾向が見られるため両者の関係性をみることが難しくなった。しかし、需要の特徴や変化を把握することはいずれにせよ行いたいと考えている。 まずは個別のインタビューによって特徴を把握した上で、うまく質問票を構築できそうであればアンケートを実施する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
個別のインタビューを各国で実施するために出張旅費を用いる。 アンケートを実施することになればそのための経費が必要である。 産業のデータ収集のために経費を使用する予定である。
|