日本の乳業は国産原料乳を加工処理した牛乳乳製品を国内市場で販売するという市場構造のもとで、海外市場での事業展開には相対的に消極的な食品産業であった。しかし、アジアでの牛乳乳製品需要の拡大や日本国内での消費減少見通し、生乳生産の減退傾向を背景にして、アジア諸国での乳ビジネスの開発・拡大に意欲的に取り組むようになった。 本研究では、以下の事例について調査研究を行った。①キリンHD-オーストラリアの乳業メーカー買収によって大手乳業メーカーとなったものの、乳ビジネスの管理運営が難しく、合併による収益の改善を阻害している要因、②(株)明治-上海での日本産の牛乳・乳製品、豪州産の育児用粉乳輸入販売事業の中止、蘇州工場でのヨーグルト、生クリーム事業の開始の背景と課題、③(株)明治-タイのチルド牛乳事業の成長を支えてきた要因と現状における課題、④(株)雪印メグミルク-インドネシアでのチェダープロセスチーズ事業の背景と今後の展望が主な海外の乳ビジネスの調査事例である。 これらの調査をつうじて、海外事業では原料乳の調達と製品の販売が重要な課題となっており、提携関係を築けるパートナー企業の選択や相互連携のあり方の差異が、乳ビジネスが直面する問題やその処理・解決のあり方を左右していることが理解された。日本の乳業メーカーは総じて原料乳の処理・製品製造における技術開発や品質管理を担当しており、生乳調達や製品販売については、海外の酪農企業や商社などに委託していることが多い。原料乳の安定的な調達や品質改善については、日本での経験が活用できるといえよう。一方、製品の販売については、品質管理や販売促進、債権回収などは現地の商慣習や小売市場の特質を踏まなければならず、日本の乳業メーカーと流通事業者との提携内容が重要な課題になっていることが明らかになった。
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