研究課題/領域番号 |
23530273
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
島根 哲哉 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (90286154)
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キーワード | 産業論 / 大学入試 / 離散選択モデル |
研究概要 |
本研究では,受験生の出願行動を離散選択問題として定式し,彼らの期待効用最大化の結果として説明することを試みている.その上で,大学側の受験機会設定の変更や教育サービスの変更が出願行動にもたらす影響を明らかにし,さらにはこうした変更についての受験生の観点からの評価を定量的に与えようというものである. 本研究のアプローチは,理論的な側面と実証的な側面がある.前年度に続き本年度は,同日実施であるため併願を考慮する必要のない国公立大学の前期日程の出願について,それぞれの側面から検討を加えた.理論的な側面としては,出願行動を決定する期待効用の定式化を行った.出願した大学に入学することによって得られる効用は,その大学に出願した上で入学試験に合格し,入学したという条件の下で得られるものである.特に入学試験の合否は受験生にとっては結果を得るまでは確率的捉えるしかない.そこで,他の受験生の出願状況を与件としたときの,センター試験スコアによる条件付きの合格確率を考え,これを考慮した出願大学選択をモデル化した. さらに,このような受験生の行動の下で,結果としてどのような均衡が得られるかについて理論的な検討を加えた. 実証的な分析のためには,過去に実現した出願者と彼らの合否,また大学入学により期待される効用を説明する各大学の教育サービス等に関する情報を収集することが必要となる.今回は対象となる国立大学について,受験予備校が公開するセンター試験得点と出願及び合否に関する情報を分析できるよう収集,整理及び加工を新たに公表された結果についても追加して行った.これらの作業を通じて得られた複数年の結果を統一的に分析するための統計モデルの検討を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までは,受験生の出願行動を明らかにするにあたり,判断の根拠となる合格する確率について陽に表現すること無く数値的なアプローチを通じて実現しうる帰結について言及することを試みた.しかし,研究の目標とする大学の入試枠組みの変更や学部の再編などによる出願先の変更について言及すること考慮すると,「出願の均衡」を解析的な表現を持った合格する確率にもとづいて吟味する必要があると考えた.そこで,受験生の選好と彼らのセンター試験の結果について既知である場合について,均衡の導出を試みた.そこで小規模な問題を中心に基本的な特性の整理を行い,より大規模な問題に適用した場合の計算上の問題点を検討した. 本研究で取り扱うモデルに関して推定およびシミュレーションを行う段階で,選択確率を数値的に求めるためにシミュレートされた尤度の計算が必要となる.この計算を高速化することを目指してGPGPUによる並列演算の実装を試みた.試験的な実装の下で,目的の演算を実行できるようになったが,計算速度は期待した高速化が達成されなかった.これは,GPGPU用の言語を行列計算ソフトウェアから呼び出す形式で実装したことも一因として考えられ,今後開発環境及び実行環境の再検討とともに,実装するアルゴリズムの最適化を課題として残している. 新たに公表されたデータについて,収集を行い,分析可能なように整理を行った.データの蓄積を進めることで,実証分析を行うための準備を進めることができた. 全体としては,分析の前提となる理論的枠組みについて見直しに注力して取り組んできたが,当初想定した進捗にはいたらなかった.また,計算の実行環境の改善についても,期間中には期待した水準に達しなかった.これについては,対象とする分析範囲を限定することで回避することもできると考えている. 上記のような状況を鑑みて,進捗状況はやや遅れていると考える.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度に当たる本年は当初の計画では,併願を含めた出願に関する分析を行うこととしてきたが,前年度の進捗状況を鑑み,主に併願を認めない場合の受験生の出願行動に引き続き注力する. (1)併願を認めない場合の受験生の出願戦略を引き続き検討し,その均衡の特性を明らかにする. (2)得られた理論的特性に対応する形で,計量モデルを構築し推定手続きを開発し,またその実行環境を構築する. (3)引き続きデータの整備に勤め,実証分析を行うことにより,大学の入試制度とその運用について知見を得る.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度までは,理論的枠組みの見直しに注力したため,計算環境の整備については一部見送り予定した研究費を使用しなかった.累積の未使用額は186万円ほどであるが,これを含めて今年度は以下の計画に従って使用する. (1)実証分析のための計算環境構築:本研究の実証分析において,シミュレーションを用いた推定手順が有効であると考えられる.これは推定をする離散選択モデルに内生性が無視できない部分を含んでいるためである.シミュレーションを用いた推定では多くの計算資源を要求するものが多く,実証研究をする際の障害となるが,ここではデスクトップ上にこれらの計算に適した計算環境を構築するとことを目指すとともに,大学所有の並列型計算機を有効に活用することを試みる. (2)理論分析のための知見の収集:分析の対象となる大学の選択に関しては,経済学に限らず幅広い分野で取り上げられ議論がなされている.これらについて文献を通じて知見を得ると同時に,必要に応じて専門家の意見を聞き取る機会を設けより適切な行動モデル構築に活かす. (3)データ入手及びその整備:実証分析を進めるために,今年度までに構築した併願を認めない場合の分析のためのデータセットの拡張,及び新たに併願を認める場合について分析を進めるためのデータの入手及びデータセットの構築を行う.必要なデータの入手及びこの整理のために研究補助者を雇用する. (4)研究成果の発表:分析によって得られた知見をまとめ,口頭発表及び論文の投稿を通じて発表する.
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