研究課題/領域番号 |
23530274
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
手塚 広一郎 日本大学, 経済学部, 教授 (90323914)
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キーワード | 海上輸送産業 / 港湾間競争 / 国際情報交換(韓国,台湾など) / 非協力ゲーム / 不定期船市場 / スポット運賃とFFA / 東アジア / 国際物流 |
研究概要 |
本研究の目的は,海上輸送産業や港湾インフラにおける競争が,東アジアの国際物流に対して与える影響の評価を試みるものであり,平成24年度においては,次のことを実施した. 第1に,東アジアにおける港湾間競争について,非協力ゲームの枠組みを用いた港湾間競争のモデルを設け,そのモデルを神戸港と釜山港との競争に適用した論文を完成させた.この論文は,2013年1月にTransportation Research Part E誌に掲載されるに至った.さらに,釜山港と神戸港の競争から東アジアにおける港湾間の競争へ発展させるため,選考研究のサーベイを通して「港湾間競争」の概念の整理を試みた. 第2に,定期船市場の産業組織の分析に関しては,前年度に引き続いてCAPM(資本資産評価モデル)の時変的なβを推定し,その推定結果から,競争促進政策の導入とそれに伴う環境変化が,当該産業に与える影響について解釈を与えた.この成果の一部は,2012年5月にMaritime Policy and Management誌において公表された.さらに,今後の展開として,競争促進政策が海上輸送産業の構造に関連してどのような影響を与えたかについて,物流やロジスティクスと当該産業との関係に着目して検討を行った. 第3に,不定期船市場の価格形成については,先渡しとスポットの価格形成モデルに関して,これまでにまとめた内容を展開させ,市場参加者の平均的なリスクに対する態度が対象となる期間においてどのように変化したかを観察し,石炭や鉄鉱石などのようなほかの商品市場とどのような関連性があるかについて検討した.この成果の一部は,2012年9月に台湾で開催されたIAME(International Association of Maritime Economics)コンファレンスにおいて報告された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に予定した計画は次の通りである.第1に,この研究期間を通して実施していることとして,①データ収集・東アジアの国際物流にかかわる制度面の把握,②モデル・ビルディング,および③定量的・定性的な分析の実施,という3点がある.まず,データ収集や制度面の把握に関しては,23年度までに集めた不定期船市場のスポット価格や先物価格やポートチャージなどのデータの整理・加工を行ったり,論文のサーベイをもとに「港湾間競争」の概念の東アジアの港湾に対しての適用可能性などについても制度的な面から検討した.次に,モデル・ビルディングに関しては,これまでに作成したものを論文に取りまとめる際,査読者からのコメントに応じて適宜モデルの修正作業を進めた.そしてこれらの成果をもとに,海上輸送産業の価格形成の問題に関しては定量的な側面から,港湾間競争の問題に関しては主として定性的な側面からそれぞれ検討を行った. 第2に,これまでの成果をまとめ,論文の投稿や学会報告を通じて,逐次公表した.論文の投稿については,港湾間競争の内容をTransportation Research Part E誌に投稿し,これが掲載された.定期船市場の分析に関しては,Maritime Policy and Management誌に投稿し,これも掲載されるに至った.学会の報告に関しては,台湾で開かれたIAMEコンファレンスや韓国・ヨスで開かれたICSAL2012(International Conference of Shipping and Logistics)などにおいて成果を公表した. 以上の成果から,内容がまとまった段階で本年度においては,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度は,次のことを重点的に行う予定である. 第1に,研究の推進に関しては,東アジアにおける国際物流により焦点を当てる.まず,港湾間競争と国際物流の形成の関係の概念的な整理を行い,この整理をもとにして,これまで行ってきた港湾間競争のモデル化との関連付けを試みる.次に,定期船市場における競争政策が国際物流に与えた影響について,先行研究をもとにして仮説を設け,定量的な分析を試みる.不定期船市場に関しては,これまで定量的な試みが主であったので,市場環境の変化について定性的な分析を行い,これまでの成果と関連付ける.その際,東アジアにおける市場環境の変化に着目する. 第2に,成果の公表については,今年度も積極的に進める.具体的には,東アジアの港湾間競争の研究については,2013年7月に開催されるWCTR(World Conference on Transportation Research)にて報告を行う.また,報告の内容を関連する学会に投稿する.定期船・不定期船市場に関する論文は,Asian Journal of Shipping and Logistics誌に投稿を行う.投稿については,内容がまとまったものから逐次行っていく予定である.あわせて,これまでの成果を国内学会あるいはシンポジウムで公表する.具体的には,日本海運経済学会での報告を予定している.こうした活動を通して,本研究の成果を広く公表していく予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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