研究課題/領域番号 |
23530275
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐々木 勝 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (10340647)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | マッチング効率性 / ハローワーク / サーチ理論 |
研究概要 |
本研究の目的は、労働市場における求職者と求人企業のマッチング効率性を決定する要因を解明することである。具体的には、求職者と求人企業のマッチング効率性を賃金上昇率、新たな就職先での定着率、そして求職期間の指標に分け、各指標が相手と出会う過程(遭遇過程)と出会ったうえで雇用契約を受諾する過程(受諾過程)のうちどちらのマッチング過程の改善で効率性が向上するのかを『職業安定業務統計』(厚生労働省)の集計データやアンケート調査を利用して検証する。今年度の研究実績は2つある。1つ目は、『職業安定業務統計』のデータを使用した個別のマッチング関数の推計を完成させたことである。ハローワークに登録している求人企業と求職者との間にあるフリクションの程度をデータから検証した。得られた結果から、求人や求職者の規模が大きくなるにつれ求人と求職者とのマッチング数は逓減に増加していることが分かった。また、非自発的離職者も自発的離職者も雇用給付期間が長いほど再就職する確率が減少した。これは、サーチ理論から導かれた予想と整合的であることが確認できた。更に、給付日数が同じでも非自発的離職者の方が自発的離職者よりも再就職する確率が高かった。これは非自発的離職者と自発的離職者の就業に対する嗜好の違いを表していると解釈できる。2つ目は、若年層の就業形態の変化を探るために高卒の就業活動と就業形態を決定する要因を分析した。得られた結果から、社交性が現在の就業形態に大きな影響を与える要因であることがわかった。反対に、高校当時の成績は現在の就業形態の決定に影響を与えないことがわかった。また、高校卒業直後の初職が今後の就業形態の決定に重要であることもわかった。すなわち、高校卒業後すぐに正社員として働くと、それ以後も正社員として働く傾向がある。ただ、その初職効果は年齢を重ねるにつれ小さくなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)個票データを利用した個別マッチング関数の推計:現在、再投稿に向けて改訂している段階である。2012年5月中には改訂を終了し、the Japanese Economic Reviewに再投稿する予定である。(2)高卒生の就業活動の決定要因:本論文は、数回の改訂を経て、the Japanese Economic Reviewに掲載することが決定した。(3)集団サーチ・モデルの経済実験:本論文は、只今改訂最中であり、2012年6月までにEuropean Economic Reviewに再投稿する予定である。(4)ナイト流不確実のあるサーチ・モデルの経済実験:この研究目的は、被験者に報酬の分布を教えた場合とそうではない場合とを比べて、被験者のサーチ行動を観察することである。理論的な予測では、報酬の分布が分からない場合、受諾する最低の報酬額は低くなることが分かっている。得られた結果をもとに、論文を執筆・改訂している段階である。(5)求職活動期間と再就職先の勤続年数の関係:求職者の個票データから、求職期間と再就職先の勤続年数との関係を検証した。求職期間が長いことは失業期間が長いことを意味するのでできれば短い方が良いという議論がある。しかし、時間を掛けて仕事を探すことは、求職期間が長くなっても、自分に適した仕事をマッチングする確率が高くなる。それは再就職先での勤続年数を長くすることで有り、マッチングの効率性の向上を意味する。本研究では、求職期間が長いほど、再就職先でのマッチング効率性が高くなるのかを検証した。本研究は、論文を書き上げ、Journal of the Japanese and International Economiesに投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)集団サーチにおける裁量権者の行動24年度は、集団サーチ・モデルの経済実験を拡張した実験を計画している。集団サーチの問題で、投票で決定する場合、キャスティングボードを握る被験者の投票行動はどのように決定されるかを検証する。理論的には、キャスティングボードを握る被験者が受諾しても良いと考える水準は高くなると考えられる。実験では、キャスティングボードを握る被験者を外生的に決定し、その被験者に着目して理論的に整合的なサーチ行動を採るかを実験から確認する。現在、実験のプログラムと説明書を作成中で、24年度6月中旬に実験を実施する予定である。その後、実験結果をまとめて24年度中に論文を書き上げたいと考えている。(2)サーチ活動における限定合理的な行動簡単なサーチ活動において、被験者はどれだけの情報を理解しているかを確認する。アイトラッカーから被験者がどの情報をどの程度把握するのかを視点の動きから捉える。具体的には、提示された報酬の分布のどの部分にどれだけの時間を掛けて視点が捉えているのか、また実験の施行の度に視点先をどのように変更させるのかを理解する。この視点の動きからサーチ行動の過程を把握することを目的とする。現在のところ、説明書の作成を始めたばかりである。24年度中には被験者を集めて実験を実施したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
経済実験用のプログラムの作成に問題があり、当初予定していた経済実験をとりやめたため、23年度の研究費に未使用額が生じた。24年度には<今後の研究の推進方策>の(1)で述べた経済実験を実施する予定である。基本的に研究費は、経済実験のプログラム作成費用と被験者への報酬に使う予定である。実施予定の経済実験では、少なくとも120人の被験者を集める予定である。1人当たりの平均報酬を3000円として、総報酬額は36万円となる。また、外部委託する経済実験プログラムの作成に10万円を計上しているので、計46万円使用する予定である。<今後の研究の推進方策>の(2)の実験では、(1)に比べて被験者を少なくする予定なので、実験費用は46万円よりは少なくなると予想する。実験結果によっては複数回実施する可能性がある。その他に、英文校正費、学会出張費、物品購入費に充てる予定である。
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