研究課題/領域番号 |
23530275
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐々木 勝 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (10340647)
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キーワード | マッチング効率性 / ハローワーク / サーチ理論 |
研究概要 |
本研究の目的は、労働市場における求職者と求人企業のマッチング効率性を決定する要因を解明することである。具体的には、求職者と求人企業のマッチング効率性を賃金上昇率、新たな就職先での定着率、そして求職期間の指標に分け、各指標が相手と出会う過程(遭遇過程)と出会ったうえで雇用契約を受諾する過程(受諾過程)のうちどちらのマッチング過程の改善で効率性が向上するのかを検証する。 今年度の成果は大きく分けて2つある。1つは、以前から継続していた経済実験のプロジェクトが完成し、国際査読誌(European Economic Review)に掲載されたことである。もう1つ継続している経済実験、そして新たに計画している経済実験のプロジェクトがある。2013年度引き続き経済実験の研究を進めるつもりである。 2つ目は、求職者の個票データを使った求職期間の決める要因分析の成果である。<11.現在の達成度>(1)に記載しているように、求職者と求人企業の個別マッチング関数の推計した論文は国際査読誌(Japanese Economic Review)に掲載されることが決定した。その他の2つのプロジェクト、<11.現在の達成度>(5)、<12.今後の研究の推進方策など>(今後の推進方策)(1)は順調に進展している。加えて、中国労働者に関する研究、<11.現在の達成度>(6)はディスカッション・ペーパーとして発表した。 詳細は、<11.現在の達成度><12.今後の研究の推進方策など>を参照。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)個票データを利用した個別マッチング関数の推計:改訂版のJapanese Economic Reviewへの掲載が決定した。(2)集団サーチ・モデルの経済実験:改訂版のEuropean Economic Review2013年夏号への掲載が決定した。(3)日本の製造業(自動車産業)における職業訓練と生産性の関係:この研究では、ある自動車工場で働く従業員と彼らを管理する組長からアンケート調査し、OJT(on the job training)と個人の生産性の伸びとの関係を推計した。この研究は、Journal of the Japanese and International Economies2013年春号に掲載が決定した。(4)求職活動期間と再就職先の勤続年数の関係:求職者の個票データから、求職期間と再就職先の勤続年数との関係を検証した。求職期間が長いことは失業期間が長いことを意味するのでできれば短い方が良いという議論がある。しかし、時間を掛けて仕事を探すことは、自分に適した仕事をマッチングする確率が高くなる。それは再就職先での勤続年数が長くなることで有り、マッチングの効率性の向上を意味する。本研究では、求職期間が長いほど、再就職先でのマッチング効率性が高くなるのかを検証した。本研究結果はJournal of the Japanese and International Economiesに再投稿中である。(5)中国における都市に移住してきた労働者と都市生まれの労働者の職歴と賃金の推移を独自のアンケート調査を使用して比較した。都市に移住してきた労働者は都市生まれの労働者に比べて当初の賃金は低いが、転職を重ねるにつれその差が縮まることが分かった。IZA(Institute for Labor Study)のディスカッション・ペーパーとして発表した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)集団サーチのおける裁量権者の行動:今年度は、集団サーチ・モデルの経済実験を拡張した実験を計画している。集団サーチの問題で投票で決定する場合、キャスティングボードを握る被験者の投票行動はどのように決定されるかを検証する。理論的にはキャスティングボードを握る被験者が受諾しても良いと考える水準は高くなると考えられる。実験ではキャスティングボードを握る被験者を外生的に決定し、その被験者に着目して理論的に整合的なサーチ行動を採るかを実験から確認する。すでに2回実験を実施しており、現在追加の実験を計画中である。実験結果をまとめて2013年度中に論文を書き上げたいと考えている。(2)日本の雇用保険制度では年齢によって雇用保険給付期間が異なる。求職者の年齢が44歳と45歳とでは給付期間に差があり、45歳の方が給付の期間が長い。その非連続的な変化の特性を活かして給付期間の増加が求職者の求職活動(求職期間やサーチ努力)にどのように影響を与えるかを求職者の個票データから分析する。2013度中にIZA (Institute for Labor Study)のディスカッション・ペーパーを完成させ、国際査読誌に投稿する予定である。(3)大規模災害がもたらす負の効果の持続性を考察する。ここでは、大規模災害として阪神・淡路大震災を取り上げる。この研究は東日本大震災から被災地が効率的に復旧・復興するための長期的なビジョンを計画するのに役立つと考える。特に着目する変数としてソーシャル・キャピタル(社会関連資本)、年間収入、賃金格差、そして主観的な幸福度である。現在、2本の研究論文を作成中であり、2013年度中にディスカッション・ペーパーを完成させ、国際査読誌に投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
経済実験用のプログラム作成に問題があったので当初予定していた経済実験をとりやめたり、学内業務のため国際学会に参加できなかったりしたので、2012年度の研究費に未使用額が生じた。2013年度には<今後の研究の推進方策>の(1)で述べた経済実験の追試を実施する予定である。実施予定の経済実験では、少なくとも120人の被験者を集める予定である。1人当たりの平均報酬を3000円として、総報酬額は36万円となる予定である。<今後の研究の推進方策>の(5)の実験では、(1)に比べて被験者を少なくする予定なので、実験費用は36万円よりは少なくなると予想する。実験結果によっては複数回実施する可能性がある。また、2013年度は最終年度なので、これまでの研究結果を学会で報告する予定である。すでに、2013年度にはデンマークで開催されるEuropean Society for Population Economicsの年次総会とシンガポールで開催されるAsian Meeting of the Econometric Societyで研究成果の一部を報告することになっている。その他に、国内学会の出張、英文校正費、物品費に研究費を充てる予定である。
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