研究課題/領域番号 |
23530280
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中山 雄司 大阪府立大学, 経済学部, 准教授 (20326284)
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キーワード | 電子商取引 / 出版産業 / 電子書籍 |
研究概要 |
本年度は、Mussa and Rosen型の垂直的差別化モデルにメーカーを導入して、デジタル製品の登場が物理的製品市場に与える影響を分析する論文を執筆し、ディスカッションペーパーとして公開した。この論文は研究目的に記した課題1と関連する(ただし、研究計画時の想定とは少し異なる)。論文では、物理的製品を高品質製品、デジタル製品を低品質製品と想定している。ただし、物理的製品の小売市場では費用条件が異なる2小売業者(小売業者Hと小売業者L)が活動する複占市場とし、デジタル製品はメーカー直販としている。上記の設定の下で、メーカーが物理的製品の卸売価格とデジタル製品の直販価格を決め、その後に物理的製品を扱う2小売業者が販売数量(メーカーへの発注量)を決める2段階ゲームのサブゲーム完全均衡を導出し、その結果とデジタル製品登場前の均衡の結果を比較した。 得られた結果は以下の通りである。まず、デジタル製品の登場により、メーカーはその利潤を必ず増やすことができるが、物理的製品の販売数量は増える場合も減る場合もある。また、物理的製品の販売数量は扱う小売業者に依存して異なり、費用条件が優位な小売業者Lは販売数量を増やす一方、費用条件が劣位な小売業者Hは販売数量を減らす場合がある。さらに、物理的製品に関するメーカー限界費用がある条件を満たすほど低いと、小売業者Hの販売数量がゼロとなるように卸売価格を上げる場合がある。そして、このような状況とデジタル製品の品質がある条件を満たすほど低いことが重なると、物理的製品の小売価格の上昇する場合がある。つまり、物理的製品を購入する一部の消費者の厚生を下げることもあり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的に記した課題2[紙の書籍と電子書籍の両方を扱う流通業者を導入した場合への拡張]と課題3[著作権保有者の意思決定をモデルに導入して,著作権者と出版社の利害対立と社会厚生上の含意を分析]に取り組むまで至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度中には課題2[紙の書籍と電子書籍の両方を扱う流通業者を導入した場合への拡張]に関連する論文を完成させる。次に,課題3[著作権保有者の意思決定をモデルに導入して,著作権者と出版社の利害対立と社会厚生上の含意を分析]に取り組む。ただし、課題3の研究は予定通りに進まない可能性もある。その場合には,方針を変更して課題1と課題2に関して複数の研究成果を挙げることが出来るようにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
論文執筆用に購入したパーソナルコンピュータが安価(4万円未満)だったこと、およびソフトウェアの更新を延期したことなどから、次年度に予算を繰り越すことになった。 次年度は、設備備品として産業組織論、マーケティング関係図書を購入する。消耗品として、ソフトウェア(計算機能を備えたワープロ,文献管理,プレゼンテーションソフトを含む一般的なオフィスソフト)をバージョンアップに従って更新する。旅費については国内出張で学会または研究会での成果報告(東京出張を2回)、海外出張で欧米の学会での成果報告(1回5日間)を想定している。謝金では,英語論文の校閲のための費用を計上している。その他では,研究成果発表費用として学会誌投稿料を想定している。
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