研究課題/領域番号 |
23530284
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
佐々木 公明 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 教授 (10007148)
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キーワード | 潜在能力 / アマルティア・セン / 地域交通体系 / 交通弱者 / 住民の幸福 / 公共交通機関 / 地区間差異 |
研究概要 |
本研究は、アマルティア・センの「潜在能力」アプローチによって、地域交通システムを住民の厚生の観点から評価することである。2011年度は仙台都市圏郊外部の「名取市」を対象とした分析を行ったが、2012年度は広大な農村部分と中山間地をもつ「栗原市」を対象とした分析を行い、地域の“交通弱者”の交通ネットワークから得られる福祉の特性を明らかにすると共に、二つの対象地域間の比較分析も行った。先ず、“交通弱者”と考えられる、65歳以上、運転免許非保有者、自動車利用で制約がある人、歩行が不自由な人に本来フィットすべきバス、送迎バスのサービスは彼らの交通から獲得される「潜在能力」を十分に高めてはおらず、当該地域の公共交通ネットワークの貧弱さを示すこととなった。都市圏近郊部の名取市の結果と比較すると、広大な面積を持つ栗原市内の地区間差異が大きいことが示された。また住民の総合生活満足度に影響を与える強さは近郊部の場合は、買い物、趣味・交流、通院活動の順であるが、広大な農村部では全く逆に、通院、趣味・交流、買い物活動の順である。すなわち、大都市近郊では買い物環境が、農村部では通院環境がより重要であることが示された。これは今後の地域政策に反映されるべきことである。 2012年度はさらに、仙台都市圏のベッドタウンとして人口増加が著しい「利府町」を対象とした分析も行った。利府町の地域交通システムを住民の「潜在能力」の観点から評価した分析の結果、公共交通を利用する場合も車による送迎(キス&ライド)が重要であり、特に鉄道利用の場合はそうであることが示された。歩行が不自由な人が、車を自由に使えず、公共交通に頼らざる得ない状況は厳しい環境である。また新興住宅地の住民にとって現行の公共交通の利便性が低いことが明らかにされた。これはベッドタウンの交通政策を立案する上で重要な知見を与える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.平成23年度の研究実施報告書中の12今後の推進方策に記した「栗原市の分析をまとめ名取市の評価と比較すること」は終了し、その成果は『尚絅学院大学紀要』に掲載された。 2.次に計画された「さらに人口増加が大きい利府町の調査を行い、その交通システムの評価を行う」ことも遂行し、その成果は『東北都市学会研究年報』に掲載予定である。 3.最後に「市町村合併により地域の面積が拡大した内陸部の登米市の調査を行い、その交通システムの評価を行う」研究も着手し、その分析の途中にある。
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今後の研究の推進方策 |
先ず、実証分析では最後の対象地域である、登米市の分析を遂行し、その成果を論文としてまとめ、学会誌などへ投稿する。合わせて、実証分析を行った4つの都市について、その分析結果の差異の要因を比較研究によって明らかにする。これを踏まえて、「潜在能力」アプローチによる分析モデル(潜在能力関数)について、改善案を提示する。そして、未だ多くはない、「潜在能力」アプローチの応用のための方法論の開拓に繋げる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次の展開のために、並行して関連文献を読み、研究を深めるので図書購入のための支出20万円、調査、学会報告の目的で使用する旅費50万円、調査・計算補助のための謝金30万円程度の支出を予定する。
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