研究課題/領域番号 |
23530284
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
佐々木 公明 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 教授 (10007148)
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キーワード | センの潜在能力 / 機能 / 地域交通システムの評価 / 住民の厚生 / 適応 / 交通弱者 / 幸福度 / 生活満足度 |
研究概要 |
所謂”交通弱者”と呼ばれる人々にとっては貧弱な公共交通ネットワークの下では、移動可能性が著しく制約され、それ故、生活の質が低下する恐れがある。なぜならば、彼らが、その公共交通ネットワークから得られる「機能」、したがってそれを「幸福」や「福祉」に変換する能力としての「潜在能力」は非常に低いからである。地域交通システムは住民の「幸福度」(福祉水準)の向上の観点から評価されるべきだが、そのためにはアマルティア・センの「潜在能力アプローチ」を適用することが有効である。 本科研費の一連の研究では、東北の中核都市仙台市のベッドタウンである「名取市」、同様にベッドタウンとして人口増加が著しく、それ故、通勤・通学者による地域交通需要が拡大している「利府町」、逆に広大な農村部と中山間部をもつ「栗原市」、同様に平成の大合併によって従来の「郡」よりも広大な面積を持つに至った「登米市」を具体的な分析対象とした。 2013年度は特に、「利府町」と「登米市」の分析を入念に行った。「利府町」では他人の運転による「送迎不可能」は住民の活動の満足度を有意に低下させる。公共交通サービス満足度ではkiss&rideやpark&rideなどの車の助けが必要で、これがない人々にとっては公共交通は不便である。 「登米市」での分析では、買い物、通院、趣味・交流の3つの重要な活動に共通することとして、女性の満足度が低い、自宅周辺以外での活動満足度が低い。これは登米市内の日常活動のための交通環境、条件は良くないと判断される。そして移動のための負荷が女性にかかっている。 我々の一連の研究について、経済哲学者の後藤玲子氏から「潜在能力」と「幸福度」の単調な関係を歪める「適応」の問題を指摘された。住民のアンケートデータに反映される可能性がある「適応」の歪みをできるだけ除去する方法論の開発がこれからの課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.「利府町」の分析の成果が『東北都市学会研究年報』vok.13に掲載された。 2.「登米市」の研究成果も『尚絅学院大学紀要』に掲載される予定である。 3.異分野の研究者からの意見に答える準備もできた。 4.予定していた海外の学会報告ができなかったが、次年度はそれを行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
後藤玲子氏から指摘があった、「潜在能力」と「住民の幸福度」の関係を歪める「適応」の問題があることは、これまでの4地域の分析でも明らかになりつつある。今後は「適応」の影響を最小限にする、アンケートの取り方、「幸福度」の聞き方の方法を開発し、これまでの対象地域にこの方法を適用し、「適応」の歪みが除去できるかどうかを検定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.アンケート調査などの関連業務をアルバイトを雇い行う予定であったが、対象自治体の好意的協力によって、その必要が無くなったこと。 2.計画していた国際学会での報告が、公務との兼ね合いで実行できなかったこと。 1.「適応」を除去するようなアンケートの実施方法を確立して、少なくとも一つの対象地域でその方法を実施する。 2.国際学会での報告を行い、そこでの批判、コメントを反映した研究の改善を図る。
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