本研究では、地域交通システムの評価においてはアマルティア・センの潜在能力考え方が重要であり、それを個々の住民の生活行動から得られる満足度によって評価することを提案した。住民の福祉の観点からなされている既存研究との大きな違いは、個人の潜在能力を定式化したミクロ的分析である。その結果、個人属性によって類型化される「交通弱者」の、地域交通ネットワークから得られる福祉の特性を明らかにすることができた。本研究で、「交通弱者」は”高齢”、”運転免許がない”、”車利用や送迎に制約がある”、”歩行が不自由”などの属性を有する者とされる。仙台市のベッドタウン”名取市”の場合、全サンプルを用いた分析では、交通弱者であることの影響はさほど大きくなかった。これは、全サンプルを用いたマクロ分析では、構成割合が小さい交通弱者の福祉の側面が統計的に現出しにくいことに拠る。しかし、交通弱者のグループでは、その影響が非常に大きいのである。例えば、中山間地を含む農村都市”栗原市”の場合、これらの交通弱者にとって、バス、地域バスは本来フィットすべきだが、住民の満足を得るに至っていない。一方、仙台市のベッドタウンとして人口が増加している”利府町”の場合、バスや鉄道などの公共交通サービスの満足度モデルにおいて、「送迎困難」は有意に負の影響を与える。これは公共交通を利用する場合にも、kiss & ride や park & ride などの車による助けが必要で、これができない人にとって公共交通は不便であることを意味する。平成の大合併によって広大な面積になった”登米市”の場合、買い物、通院、趣味・交流の3つの活動に共通することとして、女性の満足度が低く、自宅周辺以外での活動の満足度は低い。このことは登米市内の日常活動のための交通環境は良くなく、移動のための負荷が特に女性にかかっていることを意味する。
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