本研究の第1の目的は、マスメディアの集中排除原則と呼ばれる放送局の所有規制が、本来の規制目的である放送の多様性の向上に寄与しているか否かを考察することにあった。一般の企業行動では、同じ傘下にある企業が得意な分野に特化した生産を行うケースと、互いの競合を避けるために差別化された製品を生産する戦略が考えられ、放送市場においてどちらが当てはまるかは自明ではない。この問題を明らかにするため、所有規制が課せられている地上放送局とBS放送局を対象に、資本関係のある放送局と、資本関係のない放送局の番組ジャンルの多様性に統計的な有意差があるか否かを実際の番組編成データをもとに検定した。この結果、所有関係のある放送局間では、視聴者の競合を避けるため、資本関係のない放送局間よりも、異なるジャンルの番組を編成する傾向が示された。資本関係がある放送局は互いに番組編成を調整することが可能であり、番組ジャンルの多様性を確保するための所有規制の実効性に疑問を呈する結果となった。この研究成果は、2014年に発行されたJournal of Media Economicsに論文として掲載された。 本研究の第2の目的は、収入で測った放送の市場規模が縮小する中で、消費者の選択の幅も縮小しているのか否かを検証することにあった。これについては、ビデオリサーチのデータをもとに、1987年から2010年までのジャンル別番組編成を分析し、多様性が低下傾向にあること、番組編成の変化は視聴者の嗜好の変化を反映した結果というよりも、供給者の意向によるところが大きいことを明らかにした。 これまでの分析結果は、音楽を対象とした多様性に関する研究論文とあわせて、2013年に刊行の『コンテンツの多様性』としてとりまとめた。
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