研究課題/領域番号 |
23530288
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
和田 賢治 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (30317325)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 職業訓練 / 刑務所 / 受刑者 / 再入確率 / 犯罪 |
研究概要 |
当該年度実績は、刑務所における職業訓練の調査と職業訓練の効果の実証分析上の3点である。第一に日本とアメリカにおける職業訓練についてその制度についてサーベイを行った。今年度は特にアメリカに主眼を置いた。具体的には2011年11月にNew Jersey Department of Correctionsを訪問し、ニュージャージー州における刑務所内での職業訓練についてDeputy CommissionerのMark Farsi氏と当局の複数研究者にインタビュー調査を行った。またアメリカ全体で刑務所内における職業訓練に対してどのような包括的調査や統計があるか文献調査を行った。第二に、川越少年刑務所において1989年から2000年までに職業訓練を受け、かつ2000年末までに出所した全受講者を対象としたデータベース(以下既存データと呼ぶ)を元にした分析を行った。具体的には、異なる職業訓練間(例えば畳と理容)で、出所後5年以内の刑務所再入確率に統計的有意な差がある事を示した。また出所後5年以内に再入する者に対しては、異なる職業訓練間で再入までの日数に統計的有意な差がある事を示した。第三に、上記既存データベースとは期間の異なる新規データベース(以下新規データと呼ぶ)に基づく分析を行った。具体的には川越少年刑務所から2002年から2005年の間に出所した全ての受刑者(職業訓練受講者及び非受講者の両方)のデータを元に分析を行った。そして職業訓練受講者と職業訓練非受講者では、出所後5年以内の刑務所再入確率に統計的有意な差がある事を示した。また出所後5年以内に再入する者に対しては、職業訓練受講者と職業訓練非受講者では再入までの日数に統計的有意な差がない事を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに既存データを用いた分析の完成、この分析に基づいた論文の発表、新規データに基づいた分析の完成、この分析に基づいた論文の発表まで達成している。具体的には以下の通りである。第一に、川越少年刑務所における既存データを用いてAlberto and Imbens (2007)のmathing methodを用いて、異なる職業訓練間の刑務所への再入確率と再入日数への影響の差異を分析した論文を作成した。第二に、この論文を2011年7月にコロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所で発表し、計量手法や日米の制度の違いついてのコメントを得た。その結果日本とアメリカの刑務所における職業訓練の制度についての文献調査とインタビュー調査を行った。第三に、上記論文に、新規データを用いた分析を追加した。具体的には上記と同手法を用いて職業訓練の有無の、刑務所への再入確率と再入日数への影響の差異を分析した結果を追加した。第四に、この論文を2012年2月にコロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所で行われた討論者が2人いるミニコンファレンスで発表した。そして討論者であるニューヨーク州立大学のRajeev Dehejia教授からは少なくとも頑強性のチェックとしてpropensity score methodによる追加分析を行うべきとのコメントを受けた。また討論者である一橋大学神林龍助教授からは受講者全体と非受講者全体を比較するのではなく、例えば仮出所した受講者と非受講者というように標本を限っての追加分析も勧められた。また3月にノースカロライナ大学でのワークショップで発表した際にはやはりexclusion conditionは何かという計量経済学手法上の質問を受けた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度においては、既存データ及び新規データの分析手法であるmatching methodに対して、ワークショップ及びミニコンファレンスで得られた意見を参考にしながら改良する。具体的にはpropensity score methodを用いて全分析をやり直し、matching methodを用いた分析と比較し、結果に相違があるかどうか確認する。そしてこの新規分析手法に基づいた論文を再び国内外のワークショップ及び学会で発表する。また海外の学会に参加することにより労働経済学分野のミクロ計量経済学及びもう少し広くほかの分野での計量経済学の最新理論及びその応用の論文発表を聞く。そして最新の理論及びその応用方法を研究する。またアメリカの受刑者の職業訓練について引き続き調査を行う。具体的にはニュージャー州においては刑務所内の受刑者に対する職業訓練の有無の個人レベルでのデータが、少なくとも公開されている範囲では存在しない事が分かっている。しかしニューヨーク州では刑務所内の受刑者に対する職業訓練の有無の個人レベルでのデータが、申請すれば公開データとして入手可能である。従ってこのデータが当研究に使用している日本の既存及び新規データと比較に耐えうるほど詳細なデータであるかどうか調査を行う。平成25年度においては論文を海外学会にて発表し、そこでの意見を参考西ながら論文を完成させる。そして海外学術雑誌に投稿する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては研究費を主として論文の国内外ワークショップ及び学会発表の旅費に使用する。現在使用しているコンピューターのCPU、マザーボード及びメモリーは数年前のもので世代的には3世代ほど古い。従って計量経済分析の処理速度が遅いので、分析速度を上げるため、これらを最新のものにアップグレードする。また使用する計量経済学用ソフトウェアStataを現在使用中のシングルコアー対応用から、マルチコアーCPU対応用アップグレードする。これにより一回の推定時間にかかる時間が早くなると思われる。なお、計画より安価で購入可能となり、次年度使用額か3,442円あるので次年度の研究費と合わせ上記計画に有効活用する。
|