研究課題/領域番号 |
23530288
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
和田 賢治 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (30317325)
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キーワード | 職業訓練 / 再犯防止効果 / プロペンシティスコア / プロービット |
研究概要 |
今年度は各大学での発表を元に論文の実証分析を代替的なミクロ計量経済学の手法を用いて完全にやりなおした。これまでは具体的にはAbadie and Imbens(2002)に基づくmatching methodを用いて、職業訓練の再犯防止効果について分析していた。 しかしこのmatching methodにはNew York 大学のDehejia教授やColgate大学の加藤教授に よって好ましくないとの意見を頂いた。そのためHeckman et al. (1997,1998)によるpropensity scoreに基づく手法を用いて職業訓練の再犯防止効果について分析し直した。分析結果は、これまでの結果と変わらず職業訓練は再犯防止効果があるとのものであった。具体的には5年以内の再入確率が統計的に有意に低下するとの結果を得た。また加藤教授の、犯罪種類毎に職業訓練の再犯防止効果が異なるのではないかというコメントを元に分析の拡張を行った。具体的には犯罪の種類や、仮出所の有無、IQの高さ、学歴の高さ、刑期の長さに よってそれぞれ職業訓練の再犯防止効果が異なるかどうか検定した。その結果仮出所した 受刑者、窃盗や麻薬犯罪を犯した受刑者、IQの低い受刑者、学歴が3分類のうち中程度の受刑者、刑期の長い受刑者に対しては職業訓練の再犯防止効果が統計的に有意にあるとの結果がでた。さらに職業訓練の再犯防止効果の分析の前段階として、どのような受刑者が職業訓練に参加するか、受刑者のどのような性質が再犯防止につながるかというプロービット分析についても分析をし直した。具体的にはmarginal effectを求め、またいくつかの変数に関しては2次の項まで含めてmarginal effectを計算し、その統計的有意性について検定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外の大学で発表することによりこの研究テーマで用いられるミクロ計量経済学の専門家から建設的コメントを多数受けることができた。またそのコメントをもとに論文の計量分析を以前とは異なるより良い方法で完全にやり直した。部分的にやり直して後から何回も分析を修正するより、はじめから思い切ってまったく新しい方法でやり直したため結果的に時間がかからなかった。また分析をやり直す際に予想していたが、分析結果自体は以前のAbadie and Imbens のmatching methodを用いてもHeckman et al.のpropensity scoreに基づく方法を用いても変わらなかった。そのため分析結果の解釈を変更する必要がなかったのも研究が順調に進展した理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度にあたるが早い段階で論文を欧米の学術雑誌に投稿予定である。 また同時に論文について建設的意見を下さった研究者にこの改訂された論文を送付して意見交換をする予定である。特に3月に韓国のKorea Universityで論文発表した際に詳細な意見口頭および書面で下さったSangsoo Park教授はミクロ計量経済学の理論でまさにこの論文のテーマで使用した手法を拡張する研究をおこなっている。そのためSangsoo Park教授を慶應におまねきしてこの手法について最新の研究を講義して頂き、この論文のさらなる改良について意見を頂く予定である。また7月のNBERや1月のAEAに参加して計量経済学の専門家にこの論文について意見を伺う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に旅費滞在費に使用する。具体的には論文について意見を伺うため7月ボストンで開かれるNBER Summer Instituteに参加予定である。この研究会は招待者のみ参加可能だが毎年招待を受けているので参加可能と思われる。また1月に開かれるAEAにも参加する。さらにSangsoo Park教授招聘を行う。それ以外には論文送付郵送費および論文投稿費に使用予定である。また繰越金(5,451円)は旅費の一部として有効に使用する予定である。
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