研究課題/領域番号 |
23530291
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
高安 雄一 大東文化大学, 経済学部, 准教授 (20463820)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 韓国 |
研究概要 |
韓国において、2007年7月に施行された非正規職保護法の有期雇用期間制限が、有期労働者の無期雇用への転換を促進する効果を有したのか、文献調査及びマイクロデータ等から検証した。その結果、長期間の反復雇用が前提とされる有期労働者は、無期雇用に転換される傾向にあることが明らかになった。ただしそれ以外の有期労働者が、非経済活動者に移行する比率が高まったこともわかった。 なお労働条件は期間だけではなく、賃金、昇進等も含まれるが、これらの労働条件については、文献調査やマイクロデータでは明らかにできない。よって非正規職保護法の有期雇用期間制限が、雇用期間以外の労働条件にも影響を与えたのか明らかにするため、2011年8月末から9月初旬にかけて、積極的に有期雇用を無期雇用に転換した銀行部門に対して実態調査を行った。その結果、銀行の多くは有期労働者を無期雇用に転換させたが、賃金、福利厚生等の労働条件は低水準のままであり、昇進機会も限定されるケースが多かった。つまり銀行の事例からは、期間以外の労働条件については改善したとは言えないことがわかった。以上から、非正規職保護法の有期雇用期間制限の効果について、(1)長期間の反復雇用が前提とされる一部の有期労働者にとって、期間にかかる労働条件の改善の面で効果があった。ただし有期労働者の多くを占めるそれ以外の労働者にとっては、かえって失職する可能性が高まるなど、副作用も大きかった、(2)銀行の事例から見ると、期間以外の労働条件の改善には寄与しなかったことを明らかにした。 平成23年度においては、非正規職保護法の有期雇用期間制限の効果が一部確認できたものの、副作用も大きかったこと、期間以外の雇用条件の改善には寄与しなかったことを、学術的手法により明らかにした。この成果は、非正規職保護法の有期雇用期間制限の効果に対する評価に、学術的手法で寄与した点で意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に予定していたマクロデータおよびマイクロデータによる、非正規職保護法の有期雇用期間制限の影響把握は予定どおり進んでいる。韓国の研究者が公表した論文の分析(当該研究者への聞き取り調査も含む)、「経済活動人口調査付加調査」のマイクロデータの分析、同調査の質問票の分析により、有期労働者が無期雇用に転換した比率、さらには無期雇用に転換する確率の高い形態の有期労働者を把握することができた。 また平成24年度に予定していた企業に対する聞き取り調査を、1年前倒しで実行した。具体的には、銀行に対する聞き取り調査を行ったが、当初は都市銀行の悉皆調査を計画したものの、調査拒否等が生じたため、都市銀行のうち数行の調査ができなかった。さらに複数の業種に対する聞き取り調査を予定していたが、銀行だけの調査となった。よって聞き取り調査の着手は1年早まったが、聞き取り調査の対象となる業種数及び企業数は不十分であり、平成24年度は、この補完調査を行う必要がある。よって聞き取り調査は、計画より進んでいる点がある一方で、計画どおりに進んでいない点もあり、総じてみれば、おおむね予定どおり進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は大きく、(1)データによる研究、(2)文献による調査、(3)企業等に対する聞き取り調査の、3つの方向で研究を進める。データによる研究では、「経済活動人口調査付加調査」のデータを利用して、有期労働者から無期雇用に高い確率で移動する傾向にある、長期間の反復雇用が前提とされる有期労働者の特性について検討する。これら有期労働者の技能は短期間では習得できないことが多い。よって特定産業に偏在している可能性がある。また特定の学歴や年齢層に偏在しているとも考えられる。そしてどのような特性の者が長期間の反復雇用が前提とされる有期労働者となるのか分析することで、無期雇用に転換されやすい特性を明らかにする。 文献による調査では、韓国の雇用慣行をできるかぎり長期的かつ多方面から把握することにより、長期間の反復雇用が前提とされる有期労働者が、無期雇用に転換しやすい点の背景について検証する。 企業等に対する聞き取り調査では、まず銀行に対する調査を継続するとともに、証券等の他の金融機関に対しても聞き取り調査を行う。さらに技能習得が相対的に容易であると考えられる、小売業の企業に対する聞き取り調査、また社内請負により間接雇用されている労働者が多い製造業の企業に対する聞き取り調査も始める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
データによる分析においては、マイクロデータを利用した高度な分析を行う。よって分析に必要なソフトウエアを購入する予定であり、これに関連する支出は200千円程度になる見込みである。 また文献による調査においては、韓国の雇用慣行を長期的かつ多方面から把握するため、比較的古い文献を含め、韓国語あるいは日本語で書かれた一次資料の収集を行う。これら一次資料は、校内の図書館には所蔵されていないことはもとより、日本あるいは韓国全体で見ても、原則的に貸出しを行っていない図書館にのみ所蔵されている。また複写については著作権法に基づき一部分しか許可されていない。よって一次資料から、韓国の雇用慣行を詳細に明らかにしていくためには、これら文献等を収集することにより、時間をかけて読み込む必要がある。また韓国語の一次資料を読み込むためには、電子辞書が必要であるとともに、特に古いものを読み込むためには、古い表現等も網羅した大辞典が必要である。よって一次資料としての文献等、韓国語電子辞書、韓国語大辞典を購入する予定であり、これに関連する支出は800千円程度になる見込みである。 さらに企業等に対する聞き取り調査では、韓国に所在する、銀行、銀行以外の金融機関、小売業の企業等に訪問する。よって1週間程度の韓国を訪問することが必要である。またその際には専門的な内容について正確な意思疎通を可能とするため通訳が必要である。よって韓国出張を行うとともに、通訳の依頼を行う予定である。これに関する支出は500千円程度になる見込みである。
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