研究課題/領域番号 |
23530291
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
高安 雄一 大東文化大学, 経済学部, 准教授 (20463820)
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キーワード | 国際情報交換 / 韓国 |
研究概要 |
韓国で2007年7月に施行された非正規保護法の有期雇用期間制限が、有期雇用者の契約期間等に与える影響について文献調査及びマイクロデータによる分析により検証した。その結果、銀行等の金融業においては無期雇用への転換が積極的に行われている一方、流通業においては、非正規保護法が定める2年の期限以前に雇用が終了する傾向にあることがわかった。 2012年8月下旬から9月初旬にかけては、流通業において有期労働者から無期雇用への転換が増えず、むしろ雇用が終了する傾向にある理由を明らかにするため、韓国出張を行った。具体的には、労働組合を通じた大手流通企業及び研究機関等の研究者に対するヒアリング調査を行った。その結果、ある大手流通企業においては、3ヶ月間ないしは6ヶ月間の雇用契約を更新しつつ、最終的には大部分の有期労働者が無期雇用に転換するシステムを導入していた。しかし有期労働者の契約を、非正規保護法が定めた2年の期限以前に終了させる大手流通企業も多く存在し、特に組合がない場合にこのような傾向が顕著であることが明らかになった。ただし組合がある大手流通企業も、有期労働者を無期雇用に転換させるケースは少なく、売り場を細分化した上で、その業務をアウトソーシングする傾向にあることもわかった。また、流通業において有期雇用者の無期雇用への転換が進まない理由は、銀行等の金融業と異なり専門的な業務が少ないため、人材育成のための期間が短くてすみ、そのコストも小さいからであるといった意見も聴取できた。 非正規職保護法については、①有期労働者の契約期間が制限期間未満で終了する、②直接雇用されていた労働者が、アウトソーシングされ間接雇用に置き換えられるといった副作用が指摘されていた。平成24年度の研究は、非正規職保護法の副作用が、業種によっては顕在化していることを明らかにした点で学術的に意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年には、文献調査やマイクロデータによる分析からは把握できない情報を得ることを目的とした企業に対するヒアリング調査を予定どおり行った。また計画していた、①韓国の長期的な雇用慣行の推移等にかかる文献調査、②長期的な反復雇用が前提とされる有期雇用者にかかる「経済活動人口調査付加調査」のマイクロデータを利用した分析も行った。 ただし企業に対するヒアリングについては、大手流通企業の悉皆調査を予定していたが、平成23年度に行った銀行に対する聞き取り調査の時よりも多くの調査拒否が発生し、流通業の雇用について研究している専門家に対するヒアリングによって情報を補完せざるをえなかった。よって平成25年度に予定している企業実態調査では、調査拒否を回避すべき方策を講ずるべきとの課題が残った。 一方、平成24年度には、韓国の研究者による非正規職保護法の影響を分析した論文が多数刊行された。そこでこれら論文を精査することで得られた知見により、新たな視点からマイクロデータによる分析を行うことが可能となった。 平成24年度は、企業に対するヒアリング調査では課題が残ったものの、当初の予定になかった分析が可能となったことで研究を深めることもできた。よって総じて見れば、おおむね予定どおり研究が進んでいると考えられる
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今後の研究の推進方策 |
今後は大きく、①企業等に対するヒアリング調査、②マイクロデータを利用した定量的な分析、③文献による調査を行う。 企業等に対するヒアリング調査では、有期労働者の雇用比率の大きい医療サービス業を対象とする予定である。その際には、調査拒否の発生確率を低めるため、業界団体あるいは労働組合の上部団体からの推薦を受ける等の方策も検討している。 マイクロデータによる定量分析では、韓国労働研究院が提供している雇用パネル調査を利用して、有期雇用者が非正規職保護法の施行後に無期雇用に転換したか否か、また無期雇用に転換できた者とそれ以外の者について特性の差異を抽出する予定である。また事業所パネル調査を利用して、同一の企業において非正規職保護法の施行前後で、有期労働者の雇用に変化が見られたかについて検証を行う。さらに文献調査では、平成24年度に引き続き、雇用慣行の長期的な推移を検討していく予定である。 そして最終的に、企業に対するアンケート調査、マイクロデータによる定量分析、文献調査によって得られた知見をもとに、①非正規保護法の施行前後における有期労働者から無期雇用への転換率の変化、②有期雇用者から無期契約への転換率の変化に影響を与えた要因、③非正規職保護法の施行が、有期労働者から無期雇用への転換率を高めた、あるいは転換率を高められなかった要因について最終的な結論を導く計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
マイクロデータを利用した定量分析では、これまで以上にデータ量が多く、かつ処理が複雑なパネルデータを使用する。よって分析に必要なソフトウェアを購入する予定であり、これに関連する支出は280千円程度になる見込みである。 また文献調査においては、韓国の雇用慣行を長期的かつ多方面から把握するため、韓国語で書かれた比較的古い一次資料を購入する。これら一次資料は、校内の図書館には所蔵されていないことはもとより、日本あるいは韓国の図書館でも原則的に貸出しは行っていない。またこれら一次資料は複写により書籍が破損する可能性が高く、複写が許されていない場合が多い。そこで時間をかけて読み込む環境を作るためには購入が必須である。韓国語で書かれた一次資料も含め、文献調査のために必要な費用は470千円程度になる見込みである。 さらに企業等に対するヒアリング調査では、韓国に所在する医療機関等を訪問する。よって1週間程度の韓国出張を行う必要がある。またその際には、専門的な内容について正確な意思疎通を可能とするため通訳が必要である。よって韓国出張を行うとともに、通訳を使用する予定である。これに関する支出は350千円程度になる見込みである。
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