研究課題/領域番号 |
23530294
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
秋葉 弘哉 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60138576)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 外貨準備水準 / 便益最大化 |
研究概要 |
研究目的である「便益最大化」に基づく「最適」な外貨準備水準とはどのように定義すべきかに関し、平成23年度はいろいろなモデルを考慮致しました。もっともらしい異時点間最適化のモデルを援用して、一国の「便益」最大化を考慮すると、計画期間の初期における最適な外貨準備水準はゼロとなりそうです。しかし、不確実性下の最適貯蓄モデルにおいては、良い状態と悪い状態に関して、主体(つまり国)が知覚する程度は必ずしも対称ではないということは、かなり以前から知られている事実であるように思われます。そのような非対称的な反応に関しては、主体(国)が平均的に危険回避的であるということを前提とすれば、良い状態に付与する効用のウェイトは、悪い状態に付与する効用のウェイトよりも小さくなると考えられます。この事実は損失回避的な態度として知られておりますが、この損失回避的な効用関数を一国の厚生指標として仮定して最適な条件を求めてみると、ある種の条件下では最適な外貨準備水準は必ずしもゼロではなく、正となりうるのではないかということは示すことができるように思われます。その点までは何とかモデル分析で示すことが可能に思われますが、次の問題として、一体どの水準まで、予備的な外貨準備を保有することが最適なのか、というさらに難しい問題に直面致しております。このような問題の解決の手掛りを得るために、平成23年の9月から11月にかけて、現在世界で最大の外貨準備ストックを保有している中国の現状を視察致すべく、重慶市の西南大学経済経営学院に滞在致し、著しい経済発展と経済成長率を示す中国においては外貨準備ストックがどのような面で経済厚生に貢献しているかを、現地の主として金融論を専門としている経済学者の意見を聞いたり、また外貨準備ストック増加の一因である海外直接投資の現状などを見聞き致して参りました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
便益最大化に基づく最適な外貨準備水準を検討するに当たり、予備的な動機に基づく決意方法として不確実性下の最適な貯蓄決定の理論を再考致しました。そこらか解ることは、損失の全額を予備的な準備として保有する必要はないということです。より具体的に言えば、最適な保険の理論から知られるように、バッファーストックの額は期待損失額よりは大きいが、実際のありうべき損失額よりも大きいことが知られている。その最適な外貨準備水準とは、どのような特徴を持つかに関して、小国に関する単純な2期間の異時点間最適化モデルを援用して、計画期間初期において外貨準備高がゼロの下で、小国の厚生関数が損失回避的な場合を想定して、外貨準備を保有することが実際に最適かどうかを検討してみた。損失回避度と危険回避度の両者を所与とすると、厚生水準の変化は、損失の確率と損失の大きさに依存することになるため、厚生水準の変化が正、つまり外貨準備を保有することにより利益が得られるかどうかは、最適条件を示す曲面体の厚生水準の座標が正の値をとるかどうかに依存する。損失の確率は通貨危機に関する早期警戒モデルなどの文献から、歴史的に見てもっともらしい数値を基に検討した。また損失の大きさに関しては、かなり大きなリスクを仮定してみた。それらの数値を用いて、最適な外貨準備水準が正となるか否かを判断する曲面体を精査すると、現実の外貨保有高の大きな中国や日本の状況を良く反映しているもののように思われた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までのモデル分析では、異時点間の最適化のモデルを用いて、計画期間の初期において外貨準備を保有することが一国の厚生を考慮する場合に最適か否かを検討してみたが、次の問題は、外貨準備保有が計画期間中にどのような影響を及ぼし、またどのような特徴を持つかについて検討してみたいと考えている。現実の外貨保有は、流動性の危機などの場合に対応するための手段としてのバッファーストックを念頭に置くため、比較的低利ではあるが安全な外貨建債券などで運用されてきている。その意味では外貨保有の機会費用は、その保有量が膨大になると、総額としては高い機会費用となり、国民経済的には厚生の損失を意味することになる。問題はそのような機会費用等を補って余りある厚生上の利益が得られるか否かということであり、この定式化には工夫が必要と感じている。これまでのところ、投資資金を外貨借りで調達し、いずれは返済することを念頭に置いて、その一部を外貨準備として中央銀行が保有しておくようなモデルが考察されている。この場合に、計画期間中に危機のような状態に陥ると、返済が不可能になるが、その場合には課税で返済資金を調達するようなモデル設定になっている。このようなモデルが現実の各国の外貨保有を説明するかどうか疑問なしとしないが、更にこのようなモデルからは外貨保有の便益は借入の期待限界便益がその期待限界費用に等しくなる水準で決まることになり、容易に定式化できるとともに、最適条件から導かれる税率に注目が移る。このような先行研究を念頭に、計画期間中の便益最大化に基づく最適外貨準備水準の決定要因を考察すべく、私なりのモデルを考えてみたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度も、研究費は主として消耗品費と旅費に充当いたしたいと考えております。消耗品は研究にかかわる国際経済学や計量経済学に関する図書費、プリンタートナー、パソコンソフト、印刷用紙等に支出を計画致しております。旅費は、本研究課題の研究が進んでいるパリ大学に出張致し、Valerie Mignon教授と意見交換をし、またパリ大学で進んでいる均衡為替レートの研究、グローバルインバランス問題、そしてそれらの問題と最適外貨準備水準の関係を検討致したいと考えております。特に均衡為替レートの研究は、長期的にはその水準の下で対外バランスの均衡が達成されるのであれば、最適外貨準備水準はゼロとなるのか、という問題と密接に関係致しており、パリ大学の研究成果を吸収いたしたいと考えております。均衡の定義はいろいろとあり、私個人としてはパリ大学の人たちの定義する均衡概念に必ずしも賛同致しておりませんが、一つの考え方であると認識致しております。
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