前年度までの研究から、外貨準備の蓄積は一種の貯蓄と考えることができるので、不確実性下の最適貯蓄と整合的、あるいは矛盾しないである筈であると考えられ、最適外貨準備水準は正の水準になる筈であると考えて研究を継続致しました。しかし通常の異時点間の最適化問題を援用すると、初期時点での最適外貨準備水準は負の値をとりそうなことも解り、解決策を模索しておりました。不確実性下の最適消費-貯蓄理論の研究を再精査致しましたところ、問題の解決にはLoss Aversionの理論を援用すればよいのではないかという先行研究に到達致しました。その理論を援用して、最適外貨準備水準が正となるためには、Loss Aversion、相対危険回避、危機確率の数値を評価する必要があることが解りました。相対危険回避の値をSamuelsonの命題と言われる2と置くと、Loss Aversionの値は1になります。さらに危機確率は先行研究を精査すると、大体0.2-0.3程度の値となりました。それらの情報を用いて、産出量が低下/増加する確率を念頭に3次元空間で初期の効用曲面を図示すると、産出量の正の変化確率の大きい国(例えば中国)と、反対に負の変化確率の大きい国(例えばリスクが大きいと言われている日本)の両者は、ともに正の最適外貨準備水準を保有することになるという興味深い結果が得られました。危機確率が全く正反対に異なる国々に関して、このモデルではいずれも最適外貨準備水準が正の水準になるということが示されたことは、一つの成果であると考えております。現在は、この結果をさらに精査彫琢し、より一般的な結論を得られるよう、鋭意研究を継続致しております。
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