研究課題/領域番号 |
23530297
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研究機関 | 京都学園大学 |
研究代表者 |
尾崎 タイヨ 京都学園大学, 経済学部, 教授 (00160846)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ECM / Error Correction / Macroeconometrics / Global |
研究概要 |
本研究はNew Keynesian国際計量経済モデルの開発とシミュレーション分析が課題である。平成23年度には各国モデルについて小型のNew Keynesian DSGEや、ECM (Error Correction Model)モデルなどを多面的に評価することから始めた。とりわけ平成23年度はECMの開発に重点を置いてきた。このECMモデルはこれまでに開発してきたforward-lookingを含むAsian Link Modelとの整合性が高く、その延長上で成果をまとめ、次のような成果を発表した。(1)Econometric Modeling of Japan and Asian Economies(Soshichi Kinosita ed), World Scientific Pub.Inc.(2011 May)(2)中国経済発展の計量分析(山田光男編、中京大学経済学部付属研究所叢書、)2012年3月特に後者は中国モデルの開発に必要な為替政策、貿易構造の変化を中心的に分析しており、今後のモデル定式化の基礎をなすものである。特に重点的に取り組んできた点は、前述のようにECMを用いた新しい国際モデルであるが、当初の予定よりもEU、韓国を明示的に扱うため、日本、中国、アメリカ、EU、韓国の5カ国モデルに拡張し、より広範な国・地域の分析を始めた。また、年次モデルから四半期モデルへの変更など大規模な変更を伴っている。New Keynesianの特徴である、供給面での制約やミクロ理論との整合性を明確にするため、消費関数、投資関数などの考え方も抜本的に変更している。ECMでの実証例はOECDの事例など少数であるが、構造パラメータを推定する上での困難は既にGMM等でかなりよく研究されおり成果が期待できる。現時点では主要な構造方程式の特定化を比較検討している状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に進展していると考えているが、いくつかの点で若干問題点がある。平成23年度の大きな目標はDSGEモデルとECMモデルの開発であるが、評価を進める中で、大型モデルの開発ではECMによる実証化の必要性が高いことが分かった。DSGEモデルは理論的ではあるが、簡易な小型のモデルしか運用できない可能性が高い。一方の、New Keynesian Modelについては骨格をどのような方針で開発するかについて決定まで時間を要している。また、実証モデルを当初より拡張して5カ国・地域を対象としていること、特にEUが国ではなく、地域としての統合データを検証するのに時間がかかっている。さらに、各種のモデル式の推定にあって、とりわけ、日本の推定結果が近年不安定な傾向がある。ゼロ金利や急激な消費の落ち込みなどモデル的にフォローすることが難しく、妥当な結論を得られないことがやや課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降の研究方向は、前年度の研究成果を生かし、全体としてはECMモデルの大型化を中心課題にする。New KeynesianタイプのECM計量経済モデルの実証レベルでの開発が中心となるが、対象地域は日本、中国、米国、韓国、EUの5ヶ国・地域に拡大する。 一方、この計量経済モデルは多国間リンクモデルである。多国間リンクモデルでは貿易モデルが重要な役割を果たすが、この研究では特にFDIと貿易構造の変化に注目する。また、TPPやFTA等国際協定加盟の影響評価をモデル上どう表現するか研究を深める。FDIの導入という点でマクロ変数に影響を及ぼす経路はいくつも考えられるが、従来の研究がミクロなパネルデータに基づくものや、セミマクロの産業データで展開されているのに対し、これをできるだけ政策シミュレーションと連動できるように、マクロ変数とリンクした分析の可能性を検討する。要約すると、平成24年度では骨格となる多国間ECMモデルについて実証分析可能なレベルまで完成度を高めることである。その中で、貿易構造の変化、国際的な長期均衡のモデル化を反映する方向をあわせ検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)数値計算のための計算システムとしてみると、このモデルを使った政策シミュレーションでは特にゲーム論的なシミュレーションに取り組む必要があるが、技術的には計量経済モデルを与件とする最適制御問題として、ダイナミックプログラミングを利用することになる。新しい、いくつかのソフトウェア(Winsolve, Richard Pierse(2003)等)を利用することによって、これが可能となってきた。このシミュレーションソフトに習熟することが技術的な鍵になるため、ソフトの更新だけでなく、システム上の議論の場を設けるなど研究交流に研究費を使用する予定である。(2)各国マクロデータ等資料の収集も必要である。Oxford Economicsや中国統計年鑑、国連Comtradeデータベース等の整備、またIMF Stuff Paperや白書、統計書など資料収集が必要である。このうち、特にOxford Economicsデータは信頼度が高く、整備状況が良好なため、主要なデータソースとして引き続き購入する予定である。また、中国を中心としたFDI統計は日本ではJETROが扱っているが、これも引き続き購入する必要がある。(3)旅費としては、資料収集、計量分析研究会等のワークショップでの議論のための旅費を予定している。外国旅費としては、イギリス等への研究交流、ワークショップ参加、スペインでの計量経済学会への出席を予定している。また、継続的に学術交流を深めてきた中国江南大学との研究交流も視野に入れている。
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