研究課題/領域番号 |
23530303
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
大川 隆夫 立命館大学, 経済学部, 教授 (10258494)
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研究分担者 |
林原 正之 追手門学院大学, 経済学部, 教授 (00104901)
岡村 誠 広島大学, 社会科学研究科, 教授 (30177084)
野村 良一 東海大学, 政治経済学部, 講師 (60465599)
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キーワード | 貿易政策 |
研究概要 |
昨年の主な研究成果は、次の三点に集約される。(1)政策を享受する側の主体間における行動決定のタイミングが政策の効果に与える影響(Ohkawa, Shinkai and Okamura(2012))、(2)政策決定者の目的関数の違いが政策のタイミングとその水準に与える影響(林原(2012))、(3)政策行使主体間における何らかの非対称性が、各主体の政策推進に与える影響(Nomura et. al (2013))。以上の研究から派生した形で生まれたのが、野村(2012)と岡村、森(2013)である。 Ohkawa et al. (2013)では、同じ政策を行使したとしても、政策の享受主体の参入行動のタイミングが異なるということが判明した。この事は、政策行使におけるタイミングなどを考察する際には、政策を享受する側の主体の行動に一定の前提を置いて分析する必要性を暗示している。またNomura et. al (2013)は、政策享受側に何らかの非対称性がある場合、政策行使の順番(タイミング)如何によっては所望の結果が望めない場合のあることを示している。 一方、研究活動としては、定期的に共同研究打ち合わせの時間をとった。2012年10月13日、11月26日、2013年1月20日、2月25日、3月31日の計5回行った。上記の諸結果を受け、政策享受主体側をできうる限り抽象化した上で、次のような分析を行った。(i)林原(2012)を元に各政策当局が省益最大化を図ることを前提に、政策行使のタイミングの内生的決定というモデルを構築し計算を行った。(ii)過去に相殺関税の歴史から相殺関税が生じる需要面&費用面の特徴を読み取り、それらを組み込んだモデルを構築し、分析を行った。それ以外にも、前述の非対称性を緩和して形での分析や市場構造の決定と政策行使とを絡めた分析も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先述したが諸研究結果をまとめると次のようなものが現時点での到達点となる。(1)政策享受主体(具体的には企業)の参入行動のタイミングにより形成される市場構造に差が生じる。したがって、同一の政策を行使しても、おのずとその効果には生成された市場構造の違いが反映され、差が生じてしまう。(Ohkawa, Shinkai, and Okamura (2012)) (2)各政策主体の国が有する初期条件が異なるとしよう。この時、同一の政策を行使していくとしても、具体的にどの国の政策主体から行使していくかにより、所望の結果が得られる場合とそうでない場合が生じてしまう。(Nomura et al. (2013)) (3)自国内における二つの部局(省)が、自らの省益を優先して行動するとする。具体的には、外国企業に比して非効率な自国企業に補助金を給付する部局と外国企業から関税を徴収する部局とを考え、これらの部局が部局の利益を最大化するべく、部局間の政策行使のタイミングを決める。補助金部局の反応曲線が戦略的補完、関税部局のそれが戦略的代替となることから、タイミングは逐次となる。(林原(2012)) 一方、現在進行形の研究における、現時点での到達点は以下の通りである。(4)自国が行使する相殺関税を外国が先手で正の輸出補助金を給付し、自国が後手で正の輸入関税を課すということであると定義する。このような状況は、外国企業の生産技術が規模に関して収穫逓増、自国の生産技術が規模に関して収穫一定の場合に生じる。この状況は、過去、実際にとられた相殺関税の状況と符合している。
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今後の研究の推進方策 |
先述の4つの到達点から今年度の研究内容についての計画は以下のようになる。[1]到達点(1)の発展である市場構造と政策行使との関係については、市場構造の内生的決定と政策行使とのタイミングとの関係に焦点を当てた研究が必要となる。具体的には、2つの地方政府による企業誘致のための補助金拠出競争を考え、立地企業数(市場構造)の決定と政策行使とのタイミングが異なる局面を分析し、比較するという研究を行う。[2]到達点(2)の発展については、初期条件がある二つの国では同じであるという条件を加味した形で、Nomura et al.(2013)で行った分析をトレースする。これはすべての国で異なっていたNomura et al.(2013)のケースを補完する研究となる。[3]到達点(3)の発展については、各部局が自らの権益の最大化を図るために、その政策行使の権限を、経済厚生を最大化する主体に委譲するか否かという問題を考察する。具体的には、外国企業に比して非効率な自国企業に補助金を給付する部局と外国企業から関税を徴収する部局とを考え、これらの部局が部局の利益を最大化する為に、権限を委譲するか否かを考える。なお、[1]から[3]までのうち、first draftの作成までは少なくとも今年度中に達成する。完成の早いものから名古屋国際経済研究会やKGIOなどの研究会にて発表、英文チェックを経て投稿する。[4]到達点(4)については、上記の内容を論文にまとめ、投稿までこぎつける。 [1]については岡村氏がモデル作成および計算を大川が論文を執筆する。[2]については、野村氏が計算から論文執筆までを行う。[3]については、モデルの計算は林原氏が、論文の執筆は大川が行う。[4]に関しては、モデルの計算は林原氏が、論文の執筆は野村氏が行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
[1]から[4]までの全体の情報を共有するための打ち合わせを、出席可能なメンバーだけで年に少なくとも6回は行う予定にしている。場所は立命館大学大阪キャンパスとしている。すでに今年度第一回目を4月28日に開催した。第二回目は6月2日の予定である。特に遠方から来られる岡村氏と野村氏のために、旅費を加味して多めに分担金を配分している。 また[3]の「縦割り行政」の論文については、政治学の知識を得るために、政治学者などに取材を行うための経費を盛り込んでいる。この担当は岡村氏と林原氏なので、その分の経費を計上している。書籍の発注の遅れにより生じた岡村氏の未使用金は、政治学関係の書籍代の一部に充当する。校務の関係上、キャンセルを余儀なくされた海外出張により発生した林原氏の未使用金は、国際経済に関係する政治的な問題の取り扱いについて諸外国の研究動向を調査するため海外出張費に充当する。なお同分野の文献の渉猟は大川も行う。 論文の英文チェックと投稿に関しては、[1]は大川が担当、[2]は野村氏が担当、[3]は林原氏が担当、[4]は岡村氏が担当する。学会や研究会での発表は、岡村氏と野村氏に一任する。彼らにはそのための資料作成費なども分担金内に含めている。
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