研究課題/領域番号 |
23530305
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
春日 秀文 関西大学, 経済学部, 教授 (40310031)
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キーワード | 開発援助 / 援助の有効性 / ガバナンス |
研究概要 |
本研究は、発展途上国の経済開発や福祉向上を目的として供与される開発援助がどのように成果に結びつくか、援助の成果はどのような要因によって決定されるかを明らかにすることを目的としている。平成24年度は、平成23年度に引き続き、各分野の支出がどのような過程を通じて成果に結びつくかについての理論モデルの開発を行い、そこから得られた理論仮説について各国のデータを利用して検定を行った。 援助の有効性については多くの先行研究が存在するが、それらでは有効性の指標として主に成長率を用いている。援助と成長の関係は様々な要因に依存するため、容易には観察されない。いくつかの研究では、援助と成長率の関係を明確に示すために被援助国の特性に関するさまざまな要因をコントロールし、援助についても総額ではなくより詳細なデータを利用している。これらの先行研究の成果を考慮し、本研究では成長率ではなく所得分配のデータを利用して援助の有効性の確認を試みる。被説明変数には所得分配の代表的指標であるジニ係数を、説明変数には本研究で開発した理論モデルの結果から経済インフラ援助と貧困層支援の分野間配分を用い、回帰分析を行った。主要な結果として、1)援助の分野間配分がジニ係数に明確に影響し、貧困層支援の割合の増加が不平等を減少させること、2)援助の分野間配分の効果は複数の指標を用いて測った各国のガバナンスには影響を受けないことが示された。これらは、所得分配を援助の有効性の指標として用いた場合には、援助の効果はガバナンスに依存しないことを示している。この経験的証拠は、従来から主張されてきた援助の有効性を高めるためにはガバナンスが良好な国への援助を増加させるべきであるという政策的含意とは異なるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は、開発援助がどのように成果に結びつくか、どのような被援助国の特性が援助の成果に影響を及ぼすかを明らかにすることである。そのために、1) 援助とその成果の関係を説明する理論モデルの開発、2) 被援助国の特性に関する指標の開発、3) 援助の有効性についての実証研究を行う。 平成24年度の研究では、援助の成果指標として従来用いられてきた成長率ではなく所得分配に注目した。援助がどのように所得分配に影響するかを説明する理論モデルの開発を行った。このモデルから得られた重要な結論は、援助の分野間配分が所得分配に影響するということである。保健分野や基礎教育への援助は貧困層への所得移転と解釈ができる。一方で道路などのインフラへの援助は経済全体の生産性を向上させるために、生産性向上の恩恵を主に受ける高所得者層の所得を大きく向上させる。このように、理論モデルからは貧困層を支援するような援助の割合が所得分配を改善するということが示される。この仮説を各国のジニ係数と援助の分野間配分のデータを用いて検定した結果、明確な援助の効果が確認できた。さらに、理論モデルにおいて示唆されたガバナンスの影響についても、複数のガバナンス指標を用いて調査した。その結果、ガバナンスによる援助の有効性への影響は確認されなかった。この点は、従来の成長率を用いた援助の有効性についての研究結果と異なるものである。 上記のように、理論モデルから導かれた仮説の検定について一定の結果が得られたため、成果を論文としてまとめた。研究会等での報告の際に得られたコメントを参考に改訂中である。また、前年度の研究成果についてはシンガポールで開催された東アジア経済学会で報告を行った。報告時に他の研究者から得られたコメント等を参考にして論文を改訂し、できるだけ評価の高い学術誌に採択されることを目指して投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降は、前年度までの研究成果である理論モデルについて改良を進めると同時にそこから得られた理論仮説の検定を中心とした実証研究を進める。平成24年度の研究では、援助の有効性はガバナンスに依存しないという結果が得られた。これは、先行研究に見られる「援助の有効性はガバナンスに依存する」という仮説を否定するものである。この結果の妥当性についてさらに検討する。特に予想に反する結果が、用いた指標によるものなのか、また従来の研究と異なり所得分配を指標として用いたことによるのかを明らかにする。一定の成果が得られた段階で、論文としてまとめ学会報告を行う。その後、他の研究者から得られたコメントを元に改訂し、できるだけ評価が高い学術誌に採択されることを目指して投稿する。 また、理論モデルについては、これまで援助分野として所得移転とインフラ投資に注目してきたが、他の重要な援助分野である教育についても考慮する。教育については、貧困層を対象としていても人的資本への投資につながり生産性が向上する点が所得移転とは異なる。この点を考慮したモデルを開発し、実証研究を行うためのフレームワークを検討する。これについても一定の成果が得られた段階で論文としてまとめ、学会・研究会で報告を行う。また、そこから得られる理論仮説を検定するためのデータの入手を行い、実証研究を行う。 現在投稿中の論文についても査読者のコメントが得られた時点で改訂し、評価の高い学術誌に採択されるよう投稿を続けていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究において研究経費は主に論文・図書の購入、データの収集・加工、関連する分野の研究者との打ち合わせ旅費、国内外の学会での成果報告に用いる。平成25年度については以下のようにデータ収集と成果報告に研究費を使用する計画である。 1)被援助国の特性を表す指標を作成するため、政府支出やガバナンスに関するデータ・文献をIMF,OECDなどの国際機関やその他の調査機関から購入する。また、CD-ROMやインターネットから入手できないものは内外の研究機関等を訪問し入手する。必要に応じてデータ加工のための研究補助を利用する。また、データの加工・統計処理に用いるソフトウェアの購入費用および年間保守費を計上する。平成24年度は理論研究を中心に行ったため、予定していた実証分析用データの購入を一部延期した。そのため発生した繰越金280152円についても平成25年度におけるデータ購入費用の一部にあてる。 2)一定の成果を得られた時点で論文としてまとめ、学会で報告する。論文は海外の学術雑誌に投稿するため英文校閲の費用を計上する。また、学会での成果報告のための旅費を計上する。
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