本研究は、発展途上国の経済開発や福祉向上を目的として供与される開発援助がどのようなメカニズムで成果につながるのか、援助の成果はどのような要因によって決定されるのかを明らかにすることを目的としている。平成26年度は、平成25年度に引き続き、各国のガバナンスを客観的なデータに基づいて評価する指標の開発を行った。また、援助の効果に影響を及ぼすと考えられる被援助国の特性である教育・不平等について、それらの関係を明らかにするための理論モデルの開発を行った。 発展途上国が受入れた援助の総額については、ミレニアム開発目標が合意されて以降、大きな増加が見られた。しかし、雇用・住宅・教育・人口政策・保健・環境の各分野の指標で計測した進捗状況は、援助が増加した分野でもほとんど改善が見られなかった。本研究ではこれらの各分野の指標を用いて、初期値が同じ水準のグループにおける援助額と進捗状況の関係からガバナンス指標を作成した。その結果、低所得国のなかでも複数の国が良いスコアを獲得していることが明らかとなった。この結果は、ミレニアム開発目標の到達度のみに注目する従来の方法では公平な評価ができていないことを示唆している。 また、所得分配が教育水準とどのような関係を持っているかを説明するために、個人の教育選択についての理論モデルを用いた分析を行った。教育と所得の地域格差が大きいことで知られるタイの東北部・北部・南部・中部・バンコクの就学率のデータを用いて、モデルから教育の収益率と賃金格差を導出し、教育と不平等の決定要因を分析した。モデルによって教育の収益率が高いときでも就学率が低くなりうること、その場合にタイの地域間所得格差および所得の低い農村地域と高いバンコクで不平等が特に高くなることを整合的に説明することが可能となった。
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