研究概要 |
1980年代以降の公企業の民営化の流れの中てで,公企業と民間企業が競合する市場(混合市場)の分析が進んできた。しかし,これまで分析対象は,財市場が中心であり,労働市場における賃金率や金融市場での利子率も含めた分析は多くない。そこで「企業行動の内生的手番」の考え方を,労働市場と金融市場も考慮して,混合寡占市場の分析に適用することを目的として研究を進めてきた。本年度は,横浜,滋賀,神戸,尾道での学会,研究会参加,資料収集,研究打合せを通じて研究を進め,以下のようなことかが明らかになった。 (1)混合寡占市場の分析範囲を財市場での数量競争に限定した最適部分民営化比率を導出する手法を前年度に引き続き検討した。先行研究と同様に部分民営化が望ましい状態であることを図解による直観的な説明とともに確認できた。そして,先行研究で扱われている部分民営化比率の決定方法を,より現実に妥当性のある方法に修正した場合を検討した。結果として,その場合でも部分民営化が望ましい状況である可能性があること,そして,先行研究の結果と比べ,より低い部分民営化比率で望ましい状況が実現できる可能性があることが確認された。 (2)労働市場での賃金決定の状況を考慮し,民間企業のみ報酬制度として利潤の一定比率が労働組合に分配されるprofit sharing制度を採用している場合に,公企業が完全国有化と完全民営化の2つの状況にある場合,利潤のうち労働組合に分配される比率を表わすsharing パラメーターが,ある一定の範囲に設定される場合には,完全国有化も完全民営化もともに最適ではないことが確認された。 (3)金融市場の分析を行なう場合の前提として,金融不安定性を分析できるマクロ動学モデルを構築し,金融の不安定性には,有利子負債の累積的拡大,金融構造の脆弱性,確信の不安定性が重要な役割を果たしていることを確認した。
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