今年度は、日本の中小企業データを用いて同族企業における日本的雇用慣行を分析した。具体的には、第1に、同じ中小企業であっても、同族企業では年功序列型賃金や終身雇用制度が存在しにくい。第2に、非同族企業では同族企業と異なり、労働組合があると年功序列型賃金や終身雇用制度が存在する傾向があるという仮説を検証することである。分析の結果、同族企業では終身雇用制度が存在しにくい傾向が確認された。また、同族企業と異なり非同族企業では、労働組合があると終身雇用制度が存在しやすい傾向が確認され、年功序列型賃金は家族取締役率が高い企業では存在しない傾向が示された。さらに長期政権企業では終身雇用制度が存在しない傾向が観察され、また非長期政権企業では長期政権と異なり労働組合があると終身雇用制度が存在する傾向が確認された。 この結果は以下の含意を有する。従来、日本では終身雇用制度や年功序列型賃金といった日本的雇用慣行は日本的なコーポレートガバナンスと補完的な関係にあると指摘されていた。しかしながら、この議論は主に大企業のホワイトカラーを分析対象としており、中小企業では当てはまらないという批判があった。本稿では中小企業の雇用慣行を分析することを目的として、どのような中小企業で日本的雇用慣行が成立しているのかについて、ガバナンスの形態の1つである同族企業に注目し、同族企業と非同族企業では日本的雇用慣行の存否に違いがあり、労働組合が終身雇用制度や年功序列型賃金に与える効果が異なることを明らかにした。この分析の結果、同じ中小企業であっても日本的雇用慣行の有無に差が見られ、その原因として同族企業であるか否かが重要であることを示した。
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