地域間人口移動は、地域間の効用の格差が移動費用を上回るときに行われる。経済的要因の地域差は、労働力人口の他地域での就業を目的とした移動を促す。 本研究では3か年の研究計画を通じて、年齢や世帯構成など個人の属性を踏まえての移動要因の検討を行った。平成25年度の研究では、2000年以降の都道府県間移動について、就業地の変更を伴う遠距離への移動と、就業地を変えない事の多い同一大都市圏の近距離の移動とに分けて、両方の分析を行った。 前者については、2010年の国勢調査報告のデータを用いて、2005年時点からの遠距離移動の要因を分析した。移動元の失業率、第三次産業就業者比率、一人当たり所得などの変数が与える影響は、若年層で有意に他の年齢層よりも大きい。移動元の地域労働市場の状況の改善によって、若年層の流出抑制の効果の大きいことが示唆される。実証分析に加えて、人口定住のために行われている地域政策について、自治体への聞き取り調査から考察した。 後者の同一大都市圏における近距離の移動については、2000年代以降に都心回帰が進む東京、京阪神の大都市圏を中心に考察した。居住地選択と通勤パターンの変化により、東京都区部、大阪市の人口が増加している。若年、壮年層で中心市から郊外への流出が減少している。ライフステージ要因による移動の傾向も変化している。 近年は高度成長期よりも若年層コーホートの数が相当に小さくなっており、移動性向の高い年齢層の規模の縮小が、中長期的に遠距離移動数にマイナスの影響を与えると考えられる。また、若年・壮年層の近年の移動性向の変化により、地方部だけでなく都市部においても、かつて拡大を続けていた郊外で人口転出超過に転じる所が多くなるなど、都市圏内部の問題が生じている。今後は、このような2000年代以降に大きな変化が生じた問題について、要因を詳しく考察したい。
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