今年度は主に2つのテーマに集中して研究を行った。1つ目は前年度に行った、日本の銀行合併が銀行のパフォーマンスに与える影響の再検討である。前年度はDifference-in-Differenceの手法を用いて合併行のパフォーマンスの変化を分析したが、トリートメント・グループ(合併行)とコントロール・グループ(非合併行)の特徴が異なるため、分析結果は合併によるパフォーマンスの変化をうまく捉えられていない、という指摘を学会発表を通して受けた。よって今年度はこの点をAbadie and Gardeazabal(2003)のsynthetic control methodを用いて再検討した。具体的には合併行と同様の特徴を持つが、合併を経験していない「疑似合併行」を非合併行の加重合計から作成し、コントロール・グループとして用い、再分析した。 分析の結果、銀行合併は収益率、健全性、効率性を低下させることが分かった。また前年度の分析結果とは異なり、合併後の資産規模はパフォーマンスの変化とは関係がないことも分かった。 2つ目の研究テーマは、銀行合併が合併行と取引関係にある企業の株価にどのような影響を与えるかである。分析結果は銀行側の分析と正反対で、取引企業は銀行合併により株価を低下させ、また合併行が資産規模の大きいメガバンクの場合より大きく株価を低下させることが分かった。
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